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7月5日:パーキンソン病を引き起こす感染性病因(Annals of Neurology掲載論文)

2015年7月5日
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論文を読んだ後紹介しようかどうかためらう場合がある。多くは、患者さんを混乱させる心配がある場合や、逆に患者さんに対する間違った考えを植え付ける懸念がある場合だ。例えば新しい病気の原因や治療の可能性についての論文で、科学的妥当性はあっても、まだまだ研究が必要な場合だ。結論だけが一人歩きしないようにどう紹介するか難しい。実際、紹介を見合わせる場合の方が多い。今日紹介するデンマーク・オーフス大学からの論文も紹介するか迷った。ただ、特に患者さんの不利益になるわけではないので、あえて紹介する。タイトルは「Vagotomy and subsequent risk of Parkinson’s Disease (迷走神経切除のパーキンソソン病の発症リスク)」で、Annals of Neurologyオンライン版に掲載された。研究は単純で、1977年1月から1995年12月までに十二指腸潰瘍を抑えるために迷走神経切除術をデンマークで受けた患者さんを20年にわたって追跡し、パーキンソン病の発症を調べている。なぜ迷走神経切除術とパーキンソン病の関係を調べるかというと、パーキンソン病の中には、外来の病因が腸管から体内に侵入し、迷走神経を通って脳に到達することでおこる一群があるのではないかという考えが根強くあるからだ。わかりやすく言うと、パーキンソン病が狂牛病と同じメカニズムでおこるとする考えだ。実際、パーキンソン病の原因の一つとしてここでも紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3590)αシヌクレインは、変性すると神経から神経へと、シナプスを超えて伝達できることも知られており、パーキンソン病もプリオン病だとする考えにも一理ある。もしこのメカニズムがパーキンソン病の一部を説明できるなら、迷走神経を切除してしまえば感染は防げることになる。これを疫学的に確かめようとしたのがこの研究だ。さて、迷走神経切除術には2種類あって、消化管を支配する全ての神経を切断する術式と、食道と胃を支配する神経だけを選択的に切断する方法だ。もしパーキンソン病の病因が腸管から侵入するとすると、後者の術式では防げない。6万人の対照群、5339人の完全切除群、5870人の選択切除群のパーキンソン病発症率が比べられた結果、1年間の発症率が対照群で0.128%、全切断群で0.065%、部分切断群で0.096%という結果を得ている。すなわち、全切断群ではパーキンソン病の発症率が対照群の51%、部分切断群の67%に低下するという結果だ。この結果が他の要因を反映している可能性を考察した後、現時点の結論として、疫学的にはパーキンソンの一部はプリオン病である可能性が高いと結論している。この研究は一見キワモノ狙いに見えるが、もし本当なら病因を特定し、パーキンソン病を予防できる可能性がある。デンマークだけでなく、食生活の違う様々な国で同じ調査を行い、病因を探ることが重要になるだろう。ただ、迷走神経切除術が潰瘍治療として使われなくなった今、このような調査が可能な国は、患者登録システムが長年にわたって行われている欧米に限られてくる。残念ながら、わが国でも迷走神経切除例の追跡調査は不可能だろう。こんなところで過去の衛生行政の不備が実感されるとこの国は本当に先進国なのか心許なくなる。
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