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7月27日:初期乳ガン補助療法としてのアロマターゼ阻害剤(7月24日The Lancetオンライン版掲載論文)。

2015年7月27日
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明らかに有効な治療法を、新しい治療法で置き換えることはなかなか難しい。同じぐらいの効果なら、わざわざ新薬を使う理由にならないし、治験ではわからなかった長期服用による副作用の心配もある。この状況が乳ガンの再発を抑えるための薬剤タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤の間で起こった。エストロゲン受容体陽性の初期乳ガンの場合、手術と局所放射線療法の後、エストロゲン受容体を阻害する薬剤を投与し続けるのが普通になっている。最初この目的でタモキシフェンというエストロゲンとその受容体の結合を阻害する薬剤が使われてきた。多くの治験によりタモキシフェンが再発を抑えることは確認されている。その後、閉経後の乳ガン患者さんの治療として、アロマターゼ阻害剤がタモキシフェンに代わって使えることが示され、薬剤の利用が始まった。閉経後の女性は男性ホルモンを変化させて女性ホルモンを作る。アロマターゼ阻害剤はこの過程を阻害するため、基本的には女性ホルモンの量を減らす治療だが、エストロジェン受容体の機能を抑え、ガンの再発を防止するという点では同じだ。しかし、タモキシフェンの効果があまりにも優れていたので、これをアロマターゼ阻害剤に変えるというプロトコルに変えることは難しく、アメリカ臨床ガン協会も、まずタモキシフェンを使った後アロマターゼ阻害剤に変えるのがいいと提言している。ただ、基礎研究から考えると、タモキシフェンのようにエストロゲンと受容体を競合する阻害剤は、受容体の突然変異を誘発しやすく、薬剤耐性の出る可能性があると思う。今日紹介する英国からの論文はタモキシフェンとアロマターゼのどちらがガン再発防止効果が高いかを調べるため、これまでの治験を調べ直した研究でThe Lancet オンライン版に掲載されたタイトルは「Aromatase inhibitors versus tamoxifen in early brest cancer: patient-level metaanalysis of randomized trials (初期乳ガンに対するアロマターゼ阻害剤とタモキシフェンの比較:無作為化治験の患者レベルのメタアナリシス)」だ。この研究では9つの別々の治験(全員で35129人)から、患者データを全て抽出し、治療プロトコルとガン再発抑制効果と、生存率を調べている。様々なプロトコルが使われていて、比べるのは大変だったと思う。また結果も複雑でわかりにくい点もあるが、最終結果は明確で、最初からアロマターゼ阻害剤を使う方が、タモキシフェンだけ、あるいはタモキシフェンを使った後、アロマターゼ阻害剤に変えるより、再発を2−3割抑制できるというものだ。再発乳ガンのゲノム研究を見ていると、患者さんの多くがエストロゲン受容体自体に新たな突然変異を起こして少ないエストロゲンでも増殖ができるよう変化している。同じことがアロマターゼ阻害剤で起こらないとは言えないが、その後からタモキシフェンを使える可能性もあるのではないだろうか。だとすると、アロマターゼ阻害剤から始める方法に改めた方がよさそうに思える。もちろん、治療の副作用として骨折の起こる頻度はアロマターゼ阻害剤の方が高いことは覚悟する必要がある。しかし、学会のガイドラインまで見直す徹底性には頭がさがる。
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