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7月24日X染色体不活化(7月17日号Science掲載論文)

2015年7月24日
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ゲノムからあまり間違うことなく予想できることの筆頭は男女の区別だ。男性はXY、女性はXXが人間の性染色体で、この差が男女を決めている。ただこの方式には一つ問題がある。すなわち男性にはXが1本に対して、女性は2本という数の差だ。というのもXには普通の体細胞と同じ生命に必須の多くの遺伝子が存在する。もし何もしないとX染色体上の遺伝子の発現量は女性が2倍になる。多くの遺伝子は2倍の差があってもいいのだが、中には発現を一定に保つ必要のある遺伝子もある。私たち哺乳動物はこの課題に、女性の片方のX染色体をすべて不活性化することで答えている。さて一般の読者にはここからが勉強になるが、このX不活性化の主役がXistと呼ばれる17000塩基の長さのRNAで、これが不活性化されるほうの染色体から読み出されると、どんどん同じ染色体をカバーしてX染色体全体を閉じてしまう(ヘテロクロマチン化する)。このメカニズムは大変よく研究され、なぜ片方だけでXistが転写されるのか、どうして片方のX染色体だけが覆われるのかなど、理解の大きなフレームワークは出来上がっている。しかし、詳細となるとまだまだ分からないことが多く、まずXist-RNAと結合する分子を完全に特定することが必要になっていた。今日紹介するハーバード大学からの論文はこの分子リスト作成に成功したという研究で7月17日号のScienceに掲載された。この研究はXist-RNAとそれに結合している分子を結合させる方法に工夫をこらし、これまでより多くの分子を特異的に精製することが可能になった。全体では200近い分子とXistは相互作用をしていることがわかったが、今度はそれぞれのタンパク質にXistが結合しているか調べる逆の実験を行い、最終リストを作成している。この中にはもちろんこれまでXistと相互作用していることがわかっている分子はすべて含まれているが、多くはこれまで知られていなかった分子だ。詳細はすべて省くが、これらの分子が実際の不活化に関わっているかどうか、どの遺伝子が不活化ができなくなると発現するかを、細胞の遺伝子発現抑制実験を用いて調べ、X不活化にどのような分子過程が必要かを解明している。各過程のより詳細な分子過程を明らかにするにはさらに研究が必要だろうが、この論文ではその中でX染色体のトポロジーが不活化によりどう変化するかに焦点を当てて調べ、1)Xistがcohesinと呼ばれる染色体を束ねる分子を外す働きがあること、2)この結果不活化X染色体では6月3日に紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3533)、TADと呼ばれる染色体のトポロジーが完全に壊れてしまっていることを明らかにしている。これまでの研究で、Xistが実際にどのようにX染色体全体に拡がり覆い尽くせるのかについて、トポロジーとの関係を調べる研究が進んでいたが、今回の研究からcohesinを染色体から外すことがこの過程の引き金になることがわかった。今、タンパク質へ翻訳されないRNAの機能がよくわかってきた。この分野の研究を調べてみると、生命誕生時のDNA,RNA,タンパク質の関係が見えてくるような気がして最近興奮している。これについては、生命誌研究館のホームページの「進化研究を覗く」コーナーに、ゲノムとはなにかとして書き始めている(http://www.brh.co.jp/communication/shinka/)。一般の人には難しすぎると思うが、大学院生以上の人はぜひ参考にしてほしい。
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