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7月17日:パンダの隠れた病気、甲状腺機能低下症(7月10日号Science掲載論文)

2015年7月17日
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野生の動物を見にいくのは好きだが、動物園は苦手だ。小学校時代を除くと一度ボルネオトレッキングに行った時、乗り継ぎで一泊したコタキナバルのワイルドライフパークに行っただけだと思う。こんな事情だから当然パンダは見たことがない。すでに2000頭を切っているというから、おそらく野生で見る機会もないだろう。ただ、今年5月mBioに掲載されたパンダの腸内細菌には、普通の草食動物に存在するセルロースを分解できる細菌がほとんどないというのを読んで、パンダが短い腸と肉食型腸内細菌叢を持つ本来なら肉食でしか生きることのできない動物であることを知った。今日紹介する中国科学院研究所からの論文はこの矛盾した存在のパンダが生きるために選んだ戦略の一つを示した論文で7月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Exceptionally low daily energy expenditure in the bamboo-eating giant panda (竹を主食とするジャイアントパンダはエネルギー消費が並外れて低い)」だ。この論文を読むまで知らなかったが、重水素と酸素18同位元素で標識した2重標識水(doubly labeled water)を使うことで、毎日のエネルギー消費を調べる方法が開発されているようだ。原理は、2重標識水を摂取、完全に体の水と同化させた後、水としてしか排出されない水素と、水と炭酸ガス両方で排出される酸素の体内からの排出される速度の差をアイソトープで測定、これを元にエネルギー消費を調べる方法だ。この研究では、飼育しているパンダと野生のパンダのエネルギー消費をこの方法で調べ、エネルギー消費量は大きさから計算される予測値の4割しかないことを発見している。これ以外にも、丹念に食事、排出を調べてエネルギー同化についても計算し、2重標識水実験により得られた結果と矛盾がないことを確認している。この低いエネルギー消費を反映して、皮膚の表面温度も他の動物と比べ圧倒的に低い。犬と比べると実に20度近く違う。これらの結果から、パンダはエネルギー消費を落とし、竹を食べることで草食で生き残れた肉食・雑食動物だと言える。言い換えると、エネルギー消費を落とすことで、パンダという矛盾に満ちた存在が可能になっている。もちろんScienceに掲載されるためには、なぜエネルギー消費が低いかを示す必要がある。もともとパンダの甲状腺ホルモンの量が低いことはわかっていたようだが、この研究ではパンダゲノムの比較からDUOX2という甲状腺ホルモン産生に関わる分子をコードする遺伝子にパンダ特異的変異があり、完全なDUOX2分子ができないことを突き止めた。この分子の突然変異によるヒトの甲状腺機能低下症も見つかっていることから、DUOX2分子の機能をあえて失うことで、パンダは自分の矛盾を解決したという結論だ。話は面白いし、これを知るとパンダが本当に愛おしく思える。やはり節を曲げて、王子動物園にでも行ってみようかと思っている。
カテゴリ:論文ウォッチ
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