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7月13日:第6の絶滅(6月19日号Science Advance掲載論文)

2015年7月13日
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昨年のピュリッツァー賞ノンフィクション部門は、ニューヨーカー元ライターのコルベルトさんが書いた「The Sixth Extinct(第6の絶滅)」だ。私もKindle版を買ってはいるが、まだ通して読んではいない。このThe Sixth Extinctと言うタイトルは2008年カリフォルニア大学バークレー校のWakeたちがアメリカアカデミー紀要に両生類が地球から急速に失われる事を警告した論文を発表した時に使った定義で、おそらくコルベルトさんもこの定義を踏襲している。すなわち、大陸移動、火山、隕石衝突などで、1)オルドビスとシリル紀の移行期、2)デボン紀、3)ペルム紀、4)三畳紀後期、5)白亜紀に起こった生物の大規模な絶滅を5回の大絶滅としている。そして第6番目は人間が原因で今地球上で起こっている生物の絶滅を意味している。この生物多様性の問題に生物学者は警鐘を鳴らすことができても、何もできない。例えば、1万年前には人間とペットや家畜が陸上脊椎動物に占める割合は0.1%だったが、現在は97−98%になろうとしていることは生態学の常識となっている。しかしどうすればいいのか。すなわちこれも言ってみれば科学の成果だ。   今日紹介するメキシコ大学からの論文はThe Sixth Extinctという言葉をそのまま使って生物絶滅について警告している論文で、6月19日号のScience Advanceに掲載された。タイトルは「Accelerated modern human-induced species losses: entering the sixth mass extinction (人間が原因の種の喪失の加速:第6の大量絶滅期に入っている)」だ。研究自体はおそらく大学生でも十分できる。すなわち、2014年国際自然保護機関が公表した、レッドリストを元に1500年以降の脊椎動物の絶滅を丹念に計算している。この時、見積もりはできるだけ控えめに行っているが、更に控えめに最低レベルの絶滅数も計算している。結果だが、人間の数の影響を直接受ける種は1600年ぐらいから絶滅数が増えている。ただやはり工業化が始まる19世紀からあらゆる種で急速な絶滅が始まり、化石などに残る種から計算される100年に1万種の中で2種起こるという自然絶滅の頻度に対して、少なめに見積もっても1900年からは哺乳動物で28種に、通常の見積もりだと55種に達すると計算されている。この論文のメッセージはこれが全てで、また十分だろう。このような議論に対して常に科学者の中から反論が出されるのも科学だが、多い少ないは別にして、今地球は、人間によりグローバルな変化を強いられており、それが第六の絶滅として現れていることは確かだ。残念ながら、科学者はこのようなグローバルな問題に対してほとんど無力だ。というのも、この変化の起源は科学技術の発達にあるからだ。これまで社会は「more science, more future」という考えに立って、科学のアウトカムは人間の立場からだけ評価してきた。ただ、違う視点に立てば必ずひずみが見える。ただ、ひずみに対しても科学が対応できるとうそぶくと必ず反科学が生まれる。20世紀、家庭が機械化した時代に起こった温暖化問題、産業革命とともに始まった人口増大と第六の絶滅、そして医学の発展が抱える格差の発生など、私たちは科学と政治(社会の意思決定)の共通問題として捉え直していく必要がある課題を多く抱えている。残念ながら生物多様性の議論についてのわが国の科学者からの声は大きくない。これは科学者の頭の中で政治家がお金をねだる対象としてしか存在していないからだろう。実際には、科学だけで解決できない問題は多く、同じ問題を違う角度から一緒に考える相手として政治家と付き合う必要がある。わが国の科学者も政治家も、このような関係を築けるほど成熟しているかどうかわからないが、それなくして何も前には進まないだろう。
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