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10月6日:マイクロサテライト不安定性(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年10月6日
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    DNA合成時に高い確率で生じる塩基ミスマッチを修復する機能が低下すると、突然変異の頻度が上昇し、ガンになりやすいことがわかっている。実際、この機構に関わる酵素が生まれつき欠損した人では、高い頻度でガンが発生するし、またそのガン細胞を調べると、正常の何百倍もの突然変異を見つけることができる。
   また、大腸癌では、このミスマッチ修復機構の異常が他の遺伝子異常に先行するのではないかと考えられている。特に、最初にこの機構に関わる遺伝子が欠損した大腸癌では、突然変異が蓄積することから、リンチ症候群として特別に分類している。
   リンチ症候群のようなミスマッチ修復異常を診断するため、私たちのゲノムに広く分布する短い反復配列、マイクロサテライトの変異(マイクロサテライト不安定性:MSI)を調べるが、検査の基本は繰り返し配列をPCRで増幅して長さの分布を調べる方法が中心で、ゲノム上に分布した個々のマイクロサテライトを調べることはほとんど行われていない。
   今日紹介するワシントン大学からの論文は、ガンのエクソーム配列データベースから個々のマイクロサテライトを特定するソフトを開発し、ガンでMSIが起こっているかどうか調べた研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Classification and characterization of microsatellite instability across 18 cancer type(18種類のガンに見られるマイクロサテライト不安定性の分類と特製)」だ。
   この研究のハイライトは、多くのデータが存在するガンのエクソーム配列から、マイクロサテライトを抽出し、正常組織と比べて各マイクロサテライトの変異を算出するソフトを開発したことに尽きる。そのおかげで、私がこれまでマイクロサテライトやMSIについて持っていたイメージが大きく変わった。18種類、5930のガン細胞とそれに対応する正常組織のエクソーム配列を元にMSIを調べる膨大な研究で、詳細を省いて結論だけをまとめる。
1) MSIは特定のガンに集中するのではなく、頻度は異なるがほとんどのガンで見られる。すなわち、ミスマッチ修復機構の機能異常はガンで起こりやすい。
2) MSIは他の遺伝子に見られる変異と完全に相関するわけではなく、独自の変化を示す。
3) 全てのマイクロサテライトで変異が生じるのではなく、ガンに応じて変異が見られるマイクロサテライトは限られている。
4) MSIを示すマイクロサテライトの分布によりガンを分類することができるが、これはMSIが発ガン過程に何らかの影響を及ぼしていることを示唆する。
5) MSIにより変異の頻度は上昇するが、ガンの予後についてみると、MSIがあるほうが予後が良い。おそらくこれは、修復機能低下のため抗がん剤に対する感受性が上がったり、あるいは突然変異により新しいガン抗原が生まれ、免疫系の標的になるからだろう。
   今後、各MSIと発ガンについて研究が進むと、これまでわからなかった発ガンの仕組みも明らかになるかもしれない。また、新しく開発されたソフトは、エクソーム配列からMSIを正確に抽出してくれる。これは、ガンの治療戦略を決めるときの大きな力になる。
   現在PD1の使用をめぐって我が国では診療報酬の面から議論が行われているが、この研究からわかることは、チェックポイント治療にあたって、まずガンのエクソーム解析を行うことの重要性だ。今ならエクソーム解析はおそらく15万前後でできるのではないだろうか。抗体薬のおそらく1/4の価格だ。正しい順序で、効果の得られる人を予測し、適切に高額な薬剤を使うという順序が、価格議論の前に必要だが、我が国ではこの当たり前の議論を行うのは難しいようだ。
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