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10月30日:自己中心的な衝動を乗り越える(10月19日号Science Advances掲載論文)

2016年10月30日
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    昨日に続いて今日も心理学の論文を紹介する。
   今日紹介するスイス・チューリッヒ大学からの論文は、外から電磁気刺激で脳を操作して自己中心的な気持ちを克服する行動がどう変化するかの研究で、脳と行動を関連させるための操作介入研究だ。論文は10月19日にScience Advances に掲載され、タイトルは「Brain stimulation reveals crucial role of overcoming self-centeredness in self-control(脳刺激研究によって自己中心主義を乗り越える行動が自制心に重要な役割を演じていることが明らかになった)」だ。
   私たちは、将来のため、あるいは他の人との関係を維持するため、現時点の欲望を我慢することができる。この研究の目的は、将来や人間関係を考えて我慢が必要な二つの行動が、側頭頭頂接合部(TPJ)と呼ばれる支配を受けているという仮説を検証するために行われている。この脳領域は、今月10日に紹介した(http://aasj.jp/news/watch/5895)Theory of Mindと密接に関わると考えられている
  この仮説を証明するために、著者らは経頭蓋磁気刺激法(TMS)でTPJ領域の脳活動を操作し、被験者の行動が影響されるかどうかを調べている。
  将来のために我慢できるかどうかを調べるために、満期まで待てば160フラン、すぐに受け取る場合は0−160フランまでのお金がもらえるという条件で、どちらを選ぶかを決めさせる。例えば、1年待てば160フラン、今受け取る場合は50フラン、あるいは1ヶ月待てば満額、今受け取る場合は30フランと条件を変化させて、それぞれの場合で被験者に選ばせる。この実験をTMSでTPJを操作して繰り返し、影響を調べている。
  同じ様に、今度は最も近い親戚から赤の他人まで、様々な関係の人に自分の取り分をどれだけ他人に提供できるか、決めさせる。この時やはりTMSで刺激を加えて影響を受ける過程を調べている。
   結果だが、「今は我慢する」、あるいは「他の人と取り分を分かち合ってもいい」という気持ち自体はTPJ領域の帰納をTMSで乱しても影響されない。しかし、何ヶ月待てるか、今いくら受け取れるなら我慢できるか、あるいは、関係の大事さとそれに合わせた提供する額のような、量的な指標は大きく変化する。すなわち、我慢する、あるいは大事にするという判断の基準がより厳しくなる。
   最後に、これが自制心と関わることを示すために、他人の視点に立てるかについて調べる課題を行わせ(詳細は省く)、TPJ領域をTMSによって乱すと他人の視点に立つことが障害されることを示している。
   結論的には、TPJ領域は他人の視点に立つ、すなわちTheory of Mindと関わる脳の高次機能を介して、将来のために我慢したり、他人との関係を大事にする行動を支配しているが、我慢しても良い、他人との関係を大事にする気持ちそのものではなく、どの条件なら我慢するかといった気持ちの強さを支配しているという結論だ。
   最初に結論ありきの印象を強く持つが、しかしTMSがこの様に特定の脳領域操作に使えるなら、行動心理研究はかなり進展する気がする。
  一方、頭蓋の外から脳操作が可能だとすると、少し背筋が寒くなる。
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