自閉症は治すことのできない病気だと思い込んでいる人がいるが、着実に治療のための科学的取り組みは進んでいる。科学的治療といったのは、医師が思いつきで行う治療ではなく、その効果を治験という形で調べることだ。
嬉しいことに、先週はこの様な科学的治験についての論文が2報も報告されたので、紹介する。
最初の論文はロンドン・キングスカレッジを中心に自閉症児の両親に対する教育プログラムの効果を確かめた治験論文で10月25日号The Lancetに掲載された。タイトルは「Parent-mediated social communication therapy for young children with autism (PACT): long-term follow up of a randomized controlled trial (自閉症児童に対する両親を介するコミュニケーション治療(PACT)長期追跡治験)」
この研究では、テンカンや知恵おくれなどの症状を持たない2−4歳の自閉症児童をリクルート、その中から無作為に選んだ半分の児童の両親に、2週間に1回6ヶ月間、自閉症のことをより深く知り、子供を観察し、責任を持ってコミュニケーションを高めるための一回2時間の教育プログラムを受けてもらい、そこで学習したことを元に子供に接してもらうことが自閉症の子供の成長に及ぼす影響を調べている。
実はこの治験の短期効果は2010年すでにLancetに報告されている。今回は、さらに5年を経た長期効果だ。効果の判定は徹底している。ADOSと呼ばれる自閉症総合診断テストに加え、言語能力は言うに及ばず、8ミリビデオの記録を使ってコミュニケーション能力の判定も行っている。さらには、両親や学校の先生の評価も加えてこの方法の効果を確かめている。
結果はあらゆるテストで、PACTにより自閉症児の症状の改善がみられ、6ヶ月のプログラムだけで少なくとも6年にわたって効果が続いたという結果だ。2週間に一回のコースなら負担も大きくない。特に自閉症児を持つ両親はすでに大きな負担の中で生活されている。おそらく治療のための重要な時期があるはずなので、早く普及するといいと思う。また、日本版の作成も期待したい。
次の米国アーカンサス小児病院からの論文は自閉症児自体を対象とした治験で、Molecular Psychiatryオンライン版に掲載された。タイトルは「Folinic acid improves verbal communication in children with autism and language impairment: a randomized double blind placebo controlled trial(葉酸は言葉の問題がある自閉症の言葉によるコミュニケーション能を改善する:偽薬を用いた無作為二重盲検治験)」だ。
不勉強で知らなかったが、自閉症児の多くは葉酸を細胞内に取り込む受容体に対する抗体ができているらしい。この研究ではこのデータに基づき、葉酸投与により自閉症の症状改善が可能か二重盲検法を用いて検討している。この治験では、投与群23人と偽薬群25人を選び(7歳時点)、2mg/kgの還元型葉酸folinic acidを2週間投与している。
両群とも半分の患者さんに葉酸受容体抗体がみられ、これまでの結果を確認している。さて結果を簡単にまとめると、12週目で見たとき、folinic acid投与により言葉によるコミュニケーション能力の低下を阻止し、逆に改善がみられたという結果だ。この効果は、抗体陽性群で高いが、陰性群でも認められることから、一般的な自閉症治療として利用できると結論している。
詳しいデータはすべて省略しているが、両方の治験とも明日からでも実施可能な方法で、副作用もほとんどないことから、臨床応用を早期に検討して欲しいと期待している。