この論文は、タンパク質スプライシングがT細胞を刺戟するペプチド抗原の生成に大きな役割を演じていることを示しており、今後、ウイルス感染免疫やガン免疫成立を考える時、避けては通れない現象になる可能性を示唆している。タイトルは「A large fraction of HLA class I ligands are proteasome-generated spliced peptide (クラスI組織適合抗原に結合するリガンドのかなりの部分がプロテアソームでスプライスされたペプチド)」で、10月21日号のScienceに掲載された。
タンパク質スプライシングが重要な役割を演じるかもしれないと期待できるのが、T細胞刺激を誘導するペプチドの生成だ。私自身、このT細胞刺戟ペプチドは単純にタンパク質が9−12merに切断されてできてきたと信じ込んできた。しかし、もしタンパク質がスプライシングを受けるとすると、ペプチドの配列はもっと多様になる。
幸い、最近細胞内のペプチドを網羅的に解析するプロテオーム解析が進み、データベースが整備され、タンパク質スプライシングが決して稀な現象でないことが明らかになってきた。
この研究では、この様な進展を活かせる情報処理方法を開発し、様々な細胞表面上のHLA抗原に結合しているペプチドを溶出、解析してスプライシングによるペプチドがどの程度存在するか調べている。
驚くことに、三種類の細胞で調べた時、なんと3割近くのペプチドがスプライシングにより生成されたペプチドであることが分かった。さらに、メラノーマを用いた別の研究から、スプライシングを受けたペプチドがT細胞の試験管内反応を誘導することも確認しており、タンパク質スプライシングにより本来ゲノムにはない新しい免疫原性のあるペプチドができることも示している。
そして、同じタンパク質から生成されるスプライス型とノンスプライス型のペプチドを比べて、自己抗原ペプチドの三分の一がスプライス型であること、組織適合抗原と結合しやすい様なアミノ酸部位でスプライスを受けていることなどを明らかにしている。
今後外来抗原やガン抗原での解析が待たれるが、著者らはプロテアソーム内でのタンパク質スプライシングにより、組織適合抗原上に抗原として提示されるペプチドのレパートリーが増えるため、このメカニズムが進化過程で選択されてきたと考えている。確かに、どのペプチドも組織適合抗原に提示されるわけではないことを考えると、スプライシングにより、抗原性を持つペプチドのレパートリーを増やすことは免疫系の多様性にとっては重要に思える。
繰り返すが、次は外来抗原やガン抗原でのタンパク質スプライシングの役割についての研究を進めて欲しいと期待する。
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