今日紹介するスタンフォード大学からの論文は同じ治療をもう少し大規模に行った治験で10月5日号のJournal of Clinical Investigation/Insightに発表された。タイトルは「Safety and efficacy of the JAK inhibitor tofacitinib citrate in patients with alopecia areata (円形脱毛症の患者さんに対するJAK阻害剤トファシチニブの安全性と効果)」だ。
この論文を読むと、JAK阻害剤を使って円形脱毛症が治療できることについては紹介したコロンビア大学だけでなく、このグループを含め全部で3編の論文が発表されていたようだ。いずれにせよ実験的治療から2年で治験がここまで進んだのは驚きだ。
この治験では、少なくとも6ヶ月脱毛が改善しない被験者を70人募って、トファシチニブを1日2回服用させ、3ヶ月後の回復状態を調べている。病気の性格上か、対照は2人だけと医療統計学的には問題があるが、毛が生えてくればよしとする治験だ。
円形脱毛症は一種の自己免疫疾患で、毛根の活動期への誘導が抑制されており、トファシチニブは免疫系への抑制効果を期待する治療だ。
さて結果だが、頭髪だけが脱毛する円形脱毛症では70%の人で症状の改善が見られるが、全身の脱毛がある場合は10%程度の人しか改善が見られていない。したがって、この治療はまず頭髪のみの脱毛患者さんだけに適応がある。
次に、すぐ治療に反応したグループと、反応が遅い、あるいは全く反応しなかったグループの、治療前の皮膚で差が見られる遺伝子をリストし、それを元に予後が予測できるかを調べ、一つのマーカーではなく、多くのマーカーを組み合わせて皮膚を調べることで、治療に反応できるかどうか予測できることを確かめている。
他にも、治療開始までの時間が長いほど反応が遅いことも明らかになった。
以上の結果をまとめると、円形脱毛症で、他の部分の体毛に影響がないばあい、できるだけ早く皮膚バイオプシーによる遺伝子発現検査で予後を予測し、トファシチニブ治療を始めることで、かなりの効果が期待できると結論できる。
ただ、一つ大きな問題が残っている。すなわち、薬をやめると2ヶ月ほどでまた脱毛が始まることだ。すなわち薬剤の服用を続ける必要がある。
今回の治験では安全性が確かめられているが、3ヶ月の服用の話で、もっと長期については心配だ。 完全な治療法確率までは、まだ時間がかかりそうだ。
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