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6月5日:水の味(Nature Neuroscience掲載論文)

2017年6月5日
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私たちの感覚にとって、H2O、すなわち純水が刺激として働くなど考えたことはなかった。というのも、水は私たちの体の6割を占め、感覚器の周りにあまりにも多く存在しすぎているし、刺激物を溶かす媒体にはなりえても刺激物としての資格を備えているようには思えない。
   しかし今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文を読んで、純水の感覚刺激について考えている人たちがいるのを知って驚いた。責任著者は岡さんという方で、アメリカで独立している若手の日本人のようだ。タイトルは「The cellular mechanism for water detection in the mammalian taste system (哺乳動物味覚システムが味を感知する細胞メカニズム)」で、Nature Neuroscienceオンライン版に掲載された。
   タイトルを読んで、面白いことを考える人がいると感心したが、イントロダクションを読んで科学はこの問題にも取り組んできた歴史があることを知った。とはいえ、哺乳動物が純水を感知するメカニズムはほとんどわかっておらず、この研究は知覚神経を純水で興奮させられことを確かめるところから始め、確かに人工的に合成した唾液を加えたときと比べるとイオンを除いた純水が神経の興奮を誘導できることを確認している。
   純水と人工唾液を比べると、つまるところイオンが含まれているかどうかなので、この刺激がイオン濃度の低下と関係するのではと考え、人工唾液中のイオン濃度を変化させた実験を行い、重炭酸塩の濃度の急激な低下を味覚システムが感知することを突き止めた。すなわち、唾液に含まれる重炭酸塩などのイオンが水で洗われることが水の感知につながっている。
  ではどの味覚受容体がこれに関わるか、一つ一つ遺伝学的手法で調べている。嗅覚受容体分子と比べると味覚受容体の数は限られているのでこれが可能だ。最終的に、酸を感じる細胞が水の感知に関わることを突き止めている。
   重炭酸塩の濃度変化を味覚受容体が感知するメカニズムについては、細胞が発現している炭酸脱水酵素のノックアウト実験から、この酵素が媒介する、(炭酸ガス+水)対(重炭酸塩+プロトン)の転換反応のバランスが水により変化し、結果プロトン濃度(pH)変化として水が感知されることを示している。
   最後に、この経路が水を求める反応につながるかどうかを調べた方法が面白い。酸を感知する細胞にチャンネルロドプシンを導入したマウスの飲み水を制限し渇きを感じさせた後、水の代わりに光を飲む行動(舌なめずり)を示すか調べている。結果は予想通りで、光に当たると、水がなくとも水を飲んだような行動を起こす。さらに当然といえば当然だが、光で水の刺激を代用しても満足感が得られない。
   最後に行動学的解析から、このシステムが喉が渇いた時、体が必要としている水を他のドリンクと区別して摂取するのに関わっていることも示している。
   他にも、クエン酸を使った酸に対する反応実験から、水の感知が脳では異なるルートで処理されることが示されているが水という何も含まない媒体が生命にとって最も重要な分子であることを考えると、私には大変面白い論文だった。
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