今日紹介するメンフィス・セントジュード病院からの論文は、一つの抗原エピトープに対するTcRの遺伝子配列を比べることで、TcR側の法則性が見つからないかという重要な問題に挑戦した論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Quantifiable predictive features define epitope specific T cell receptor repertoires(特定の抗原エピトープに対するTcRレパートリーは、定量的に予想可能な性質により決められる)」だ。
研究ではMHCと抗原ペプチドが結合させた複合体に結合するT細胞を取り出し、個々のT細胞が発現しているTcRのDNA配列を4600近いT細胞について調べている。あとはこうして得られたデータから様々な性質を抽出して、抗原によりどのような制約がTcRにかかっているのか調べている。
例えば抗原に結合するCDR3領域の長さ、電荷、疎水性を調べると、抗原によって確かに制約のされ方が異なり、配列にも一定の法則が存在する可能性がうかがわれる。
もちろんV領域やJ領域の、αとβのペアリングによる選択制も検討している。抗原によって違うが、予想どおり抗原ごとに一定のコンビネーションが現れる確率は高い。そして、抗原ごとに反応するTcRのクラスターマップを作ることに成功している。すなわち、全くランダムにTcRは選ばれない。そして、立体構造的にもそれぞれの組み合わせの妥当性が確認できる。
最後に、TcRレパートリーの分類アルゴリズムを作成して、それが反応する抗原を特定することができるかも調べている。
結果はまだまだだが、反応するTcRデータが揃ったエピトープに対しては、かなりの確率で特定のTcRがそのエピトープとどの程度反応するかを予想できることを示している。
この研究は、TcRの配列からエピトープへの反応を特定できるかという重要な問題にチャレンジした点が重要で、ここで開発された様々な情報処理法が洗練されてくると、いつかエピトープに対するTcRを設計する日が来るのではと期待させる。これが可能になれば、ガン抗原に対するT細胞を設計することも可能になる。情報処理法の詳細はほとんど理解していないが、注目したい研究だ。
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