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6月29日:統合失調症の病理学(7月1日号Biological Psychiatry掲載論文)

2017年6月29日
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今、統合失調症などの精神疾患の病理学は面白い分野になるかもしれないと思っている。

私が学生の頃、精神科の高木先生から、鹿児島大学(だったと思うが)の病理学では亡くなった統合失調症の患者さんの脳標本を見るだけで、統合失調症かどうかを正確に診断できるようだと話しておられた。実際には高木先生も学生も半信半疑だったが、なぜなら統合失調症など精神疾患は、病理的特徴がないというのが常識だったからだ。
   しかし今日紹介するピッツバーグ大学からの論文を読んで、統合失調も病理学的に診断できる可能性があることがよくわかった。論文のタイトルは「Alterations in a unique class of cortical chandelier cell axon cartridges in Schizophrenia(統合失調症では特有の皮質シャンデリア細胞アクソンのカートリッジに変化が見られる)」だ。
最近のMRIなどを用いた脳イメージング研究によって、統合失調症だけでなく、様々な精神疾患で神経結合の変化が見られることが示されており、考えてみるとそれが病理学的変化を伴ってもなんの不思議もない。
実際、皮質の錐体細胞のアクソン同士を橋渡しするシナプスを形成するシャンデリア細胞の数や形が統合失調症で変化することについてはこれまで注目されていたことをこの論文を読んで学んだ。
  シャンデリア細胞が錐体細胞アクソンとシナプスを形成するとき、カートリッジと呼ばれるボタン型の突起(海馬でのスパインのようなもの)を介して結合するが、このカートリッジは合成したGABAをシナプス顆粒に運ぶGABAトランスポーター(GAT1)の発現で特定できる。これまでの研究でGAT1陽性カートリッジの数が統合失調症患者さんで低いことが示されていた。
   この研究では40人の統合失調症の剖検例の前頭前皮質でこの問題を再検討し、皮質の2/3層では逆にGAT1カートリッジの密度が上昇していることを発見する。この発見をより明確にする目的で、カルシウム結合タンパク質(CB)をもう一つのマーカーとして加え、GAT1+/CB+カートリッジと、GAT1+/CB-カートリッジに細分して前頭前皮質を調べると、2/3層特異的にダブルポジティブカートリッジだけがほぼ倍に増加していることが明らかになった。一方、シンングルポジティブ細胞は変化なく、また他の層でも変化は見られない。
   話はこれだけだが、重要なことは病気の経過や、治療によってこの特徴が変化しないことで、すなわち統合失調症は最初からCB陽性のシャンデリア細胞カートリッジ密度が高いことになる。
   以上の結果から、統合失調症では前頭前皮質の錐体細胞のアクソンをつないでいるシャンデリア細胞のカートリッジ、すなわちシナプスの数が減らないことが病理的特徴として疾患の最初から見られるという結論が導ける。
   この前頭前皮質のシナプスが減らないという発見の生理学的意味を理解するためにはこれからの研究が必要だが、統合失調症も病理学の対象として研究できることがよくわかった。しかも、調べた脳標本は15年近く保存されてきた標本だ。今後調べる材料は十分ある。
   これまで統合失調症は、心理学、分子生物学、生理学の対象として研究が進んできたが、最後は脳ネットワークの変化があることは間違いない。そして、MRIを用いておおまかな変化を調べることも可能になっており、それを組織的に研究するための方法も集まってきた。私が学生の頃は、見る人が見ないと、精神疾患の病理学は成立しなかったが、今や誰にでも可能な新しい精神疾患の脳病理学が始まる予感がする。
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