今日紹介する英国・ケンブリッジ大学からの論文は、BRCA2変異が起こったのと同じ効果を、アミノ酸分解により体内で自然に合成されるフォルムアルデヒドや、アルコール分解による合成されるアセトアルデヒドが持っているという恐ろしい研究で6月1日号のCellに掲載された。タイトルは「A class of environmental and endogenous toxins induces BRCA2 haploinsufficiency and genome instability(環境や体内に存在するある種の毒素はBRCA2のハプロ不全とそれによるゲノム不安定性の原因になる)」だ。
フォルムアルデヒド(FA)は体内でも合成されるが、環境に高い濃度で存在すると白血病の原因になるとして厳しく規制されている。このグループはおそらく、フォルムアルデヒドの発がん性の研究を行っていたのだろう。FA処理をした細胞増殖を調べると、高い濃度のFAだけでなく、体内に存在する濃度のFAでもDNA複製が途中で止まり、その結果DNA障害が上昇することを確認してこの研究を始めている。
そこで、この以上の背景に複製時のDNA修復因子の一つBRCA2分子が関わると踏んで(少し唐突な気がしたが)、BRCA2の変異を片方の染色体に導入し、FA処理を行うと、体内に普通に存在する濃度のFAがDNA複製を強く障害することを発見する。すなわち、BRCA2変異が片方に止まっていても、FA処理で両方の遺伝子が変異を起こしたのと同じ効果を誘導できることがわかった。
その結果、DNA複製の分岐点が暴露されたままになるので、MRE11分子により分解されることも明らかにしている。加えて、暴露されたDNA鎖にRNAが結合するR-Loopと呼ばれる構造により、染色体不安定性が高まることも示している。
この研究のハイライトは、BRCA2がFA処理により不活性化されるメカニズムで、多くのタンパク質にはほとんど影響のないレベルのFAがBRCA2特異的なユビキチン化を誘導して、分解してしまうことを発見している。実際には、BRCA2のみならず、1%近いタンパク質はFAの作用でプロテアソームで分解されるため、ヘテロ変異やエピジェネティックなサイレンシングでタンパク質の発現量が減ると、他の現象でも問題が起こる可能性は高い。
ともあれ、BRCA2が遺伝的、あるいは突然変異で半分になると、FAの濃度の高い組織では修復障害が起こり、発がんが高まるというシナリオを提案している。
さらに日本人にとっても重大な問題、アセトアルデヒドでもFAと同じ作用があるかを調べた実験も行い、生理濃度でBRCA2分解を誘導することを示している。
アルコールを飲んだ後合成されるアセトアルデヒドはALDH2で分解されるが、日本人の多くはこの分解酵素が低下、あるいは欠損している。その結果、食道癌などの発生率が高いことがわかっているが、今回の結果はなぜALDH2欠損によりガンが起こりやすいかも説明してくれた。もちろん、ALDH2が正常でも、アセトアルデヒド臭が何時間も残るような飲み方はガンの元になることもよくわかったので、避けたほうがいい。 最後に、解毒作用のあるポリフェノールを含む食品がいいとアドバイスしているが、結局突き詰めていくと赤ワインは良さそうなので、今まで通りの生活を続けることにした。
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