ところが今日紹介するドイツミュンヘンのヘルムホルツセンターからの論文はLine-1と呼ばれるトランスポゾンの転写が発生初期のクロマチン調節のオーガナイザーとして働くことを示した論文でNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Line-1 activation after fertilization regulates global chromatin accessibility in the early mouse embyo(受精後のLINE-1の活性化はクロマチン全体のアクセスのしやすさを調節している)」だ。
もともLINE-1の転写は受精後クロマチンが開くことが引き金になって始まるが、この研究では開いたLINE-1の転写を任意に調節するシステムを開発している。細胞株や個体での実験ではなく、単一卵の操作になるので、簡単ではない。
この研究ではゲノム編集に用いられるTALEをLINE-1の上流の特定の配列に結合するように設計し、これに転写活性化分子としてVP64、転写を抑制する分子としてKRABを結合させ、LINE-1の転写を調節できるようにしている。もともとLINE-1の転写は受精後から上昇し、2細胞期で最高に達し、その後急速に低下して胚盤胞期にはほとんど発現がなくなる。この時、TALE-VP64を卵に注射しておくと、転写は2細胞期を超えてもそのまま続く。一方、TALE-KRABを注射しておくと、転写はほとんど上昇しない。
結果だが、何れの操作でも胚発生が胚盤胞前で止まってしまう。
このように、LINE-1の転写が胚発生に必須だが、LINE-1のメッセンジャーを胚に注射しても同じ効果は全く得られない。また、LINE-1の転写を抑制しても、他の遺伝子の発現にもあまり変化がない。したがって、翻訳されたタンパク質や、mRNAにはほとんど機能はない。
単一細胞レベルでクロマチンが開いたかどうかを調べる方法(DNaseIを注入して開いたクロマチン箇所を切断した後ゲノムの切断をTINELで調べる方法)でクロマチンの開き方を検討し、LINE-1の転写が続くと、クロマチンが開いたままで閉じない。一方、転写を抑制すると、クロマチンの開きが悪いことが明らかになった。
結果は以上で、おそらく広く分布したLINE-1をクロマチン再構成の起点として使うことで、初期発生の極めてダイナミックなクロマチン変化をゲノム全体に及ぼすことができるのだろうという結論だ。しかし、もしそうならLINE-1をこれほど多く残している意味もあると納得する。
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