今日紹介するシカゴ大学とスイスローザンヌ工科大学からの論文は、ガンの周りのリンパ管新生はリンパ球を集める作用があり、ガンの免疫反応を高める作用があるのではと考え、マウスモデルとヒトのガンデータベースを解析した論文で9月13日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Tumor lymphangiogenesis promotes T cell infiltration and potentiate immuneotherapy in melanoma(ガンのリンパ管新生はT細胞の浸潤を促しメラノーマに対する免疫治療効果を高める)」だ。
研究ではまず遺伝子操作で外来抗原を発現するマウスメラノーマを移植したマウスのリンパ管新生因子VEGF-Cを阻害して腫瘍内のリンパ管新生を抑えても、ガン抑制効果があまりないが、VEGF-Cを発現しているガンではリンパ球や炎症細胞の浸潤が起こり、さらに免疫原性の強いガンでは抑制性のT細胞(Treg)の浸潤も起こっていることを確認している。すなわち、免疫成立という点で見れば、リンパ管新生が望ましいことになる。
そこで、キラー細胞をガンと共に移植してガンの増殖を見るシステムで、リンパ管新生がキラー細胞をガンの周りに浸潤させる効果があること、このリンパ球浸潤にCCL21ケモカインが関わっていること、またワクチンなど他の免疫療法でもVEGF-Cを分泌するガンほど強い反応が起こることも示している。
このように様々なマウスモデルを用いて、リンパ管新生がガンの免疫を高めることを確認した後、今度は臨床経過と、ガンのゲノム、発現遺伝子などが揃っているデータベースを用いて、メラノーマのVEGF-Cや、腫瘍組織でのケモカインの発現と、免疫チェックポイント治療の効果の相関を調べている。
結果だが、VEGF—Cが高いガンでは、組織のケモカインも上昇しており、T細胞の浸潤が更新していると考えられること、そしてVEGF-Cが高いと、PD-1やCTLA-4を用いたチェックポイント治療で高い効果が臨めることを明らかにしている。VEGF-AやVEGF-Dなどの血管新生因子の発現ではこのような差は全く見られない。
私が現役の頃、VEGF-Cを阻害すると、ガンの転移が抑えられることが示され、VEGF-Cはガンの進展を助けると考えられてきた。しかし今回の研究により、すでに転移があり免疫療法による治療を行う場合は、VEGF-Cは免疫反応を高める作用があることを念頭におく必要があることがわかった。
結局、個々のガンの性質を見極めて治療することの重要性がまた強調される結果だったと言えるが、PD-1治療の効果予測のみならず、アデノウイルスベクターなどでガン局所にVEGF-Cを発現させて、ガンの免疫を高めるための新しい治療法の開発などに直結していくように思える。
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