ところがこの中心体は卵には存在しない。では卵はどのように分裂するのか?この論文を読むまで、私自身は受精により精子から供給された中心体がオーガナイザーとして作用すると思っていた。しかし、中心体が構成されるのは6回程度分裂が終わって、胚の外と内が決まってからで、それまでは明確な中心体を形成せず分裂が起こっているようだ。
今日紹介するシンガポールの分子細胞生物学研究所からの論文は、この時期の微小管の伸長が細胞膜直下の彼らがブリッジと呼ぶ構造をオーガナイザーとして使っていることを示した研究で9月1日号のScienceに掲載された。タイトルは「A microtubule-organizing center directing intracellular transport in the early embyo (初期胚では微小管オーガナイズ中心が細胞内輸送の方向を決める)」で、9月1日号のScienceに掲載された。
極めてオーソドックスな細胞生物学研究で、まず微小管を生きたまま観察できるようにした初期胚の分裂をビデオで撮影、二個の娘細胞で微小管が細胞膜を挟んで細胞内へ放射されているのを発見する。もちろん中心体を構成する分子はここには存在しないが、微小管のオーガナイズ中心に存在する幾つかの分子がブリッジにも存在し、そこの微小管のプラスエンドがアンカーしていることから、このブリッジが微小管オーガナイズ中心として機能していると考えた。
この考えを確かめるため、ブリッジをレーザーで破壊したり、あるいは微小管重合阻害剤処理を行い、ブリッジが中心体と同じように微小管オーガナイズ中心としての機能を果たしており、この機能を中心体分子ではないCAMSAP3という分子が肩代わりしていることを明らかにしている。
以上がこの論文の一つの重要な発見だが、このあとこのブリッジ近くに多くの細胞内小器官が集まってきていることに気づき、細胞内の分子輸送の方向性を決めることがブリッジの機能である可能性を追求している。この目的で、初期胚の構成に最も重要なE-カドヘリンの輸送を調べ、微小管にそってブリッジへと輸送されること、そして胚の外と内の細胞でこの輸送速度が異なり、この結果、極性が維持できていることを示している。
言い換えると、ブリッジは分裂した娘細胞の非対称性を生み出すオーガナイザーとして、細胞の内外を決めているという結論だ。もっと考えると、まず大きな内外が決まるまでは中心体を形成させないことが重要ということになる。さすがに、オーソドックスな細胞生物学は説得力がある。
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