今日紹介するハーバード大学からの論文は脊髄損傷により免疫不全がおこり、肺炎に至るメカニズムを明らかにした研究でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Spinal cord injury-induced immuneodeficiency is mediated by a sympathyetic neuroendocrine adrenal flex(脊髄損傷により誘導される免疫不全は交感神経—副腎内分泌反射により媒介されている)だ。
私が知らなかっただけで、脊髄損傷、特に上部の損傷では免疫不全が起こり、肺炎に罹患する確率が上昇することが知られていた。この研究ではマウスの脊髄を様々なレベルで損傷し、免疫反応と内分泌系の変化を調べ、まず脊髄損傷により、白血球減少症と肺炎が起こること、およびノルエピネフリン (NE)がほとんど0にまで低下するが、グルココルチコイド(GC)レベルは逆に上昇することを見つけている。 NEもGCも副腎から分泌されることから、脊髄損傷により副腎の交換神経支配がなくなることで、副腎のホルモン分泌異常が起こり、その結果免疫不全と肺炎が起こったことが推察できる。これを確かめるため、まず副腎を外科的に除去すると(この場合NEとGC両方の分泌が低下する)、なんとリンパ組織のサイズが元に戻り、血中の白血球も元に戻ることがわかった。従って免疫不全はの犯人はNEではなく、CGが異常に高まることが白血球減少症を誘導していることがわかる。ただ、副腎除去では肺炎の発症を防げなかった。
そこで基礎的なホルモン分泌を続ける神経支配のない副腎を移植してGCのレベルを維持すると肺炎の発症は維持できた。
主な実験としては以上で、1)脊損により副腎の交感神経支配が消失、2)結果NEの低下と、GCの上昇、3)内分泌ネットワークが乱れ、下垂体ACTH経路の抑制による異常が固定化し、この結果、白血球減少および循環器の異常が加わって、感染症が増加する、を考えられるシナリオとして提案しているが、まだ詳細はつめきれていない印象だ。また、白血球減少についても細胞死、ホーミングの異常などデータは示しているが、明瞭な結果とは言いにくい。ただ、一つのラインが切れるだけで、複雑な内分泌系の乱れが生じ、免疫系なども複雑な変化に晒されることは間違いなさそうだ。
この研究ではマウスだけでなく、人間の脊損でも同じ内分泌系の乱れが起こることを示しており、まず脊損後のGCレベルを正常へ低下させることの重要性を示唆している。おそらく、この急性変化は長い時間をかけて元に戻るのだと思うが、急性期にはぜひ、血中濃度を測定しながら、正確なホルモン補充療法を行うプロトコルを早期に開発してほしい。
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