実際、動物モデルでは炎症性のサイトカインIL-17を妊娠中に投与するだけで社会性が低下し、繰り返し行動が高まった自閉症によく似たマウスができる。今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は母体の炎症から、生まれた子供の自閉症様症状までのブラックボックスを丹念に解きほぐした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Reversing behavioural abnormalities in mice exposed to maternal inflammation(母体の炎症にさらされたマウスの行動異常を回復させる)」だ。
このグループは、受精後12.5日目に母体に炎症を誘導すると、生まれてくるマウスの脳の体性感覚野に、皮質のマーカーを使った免疫染色で特定できるCortical Patchと呼ばれる組織異常が誘導され、これが行動異常と関連することを示していた。
この論文では炎症から行動までのブラックボックスを説明することに成功しており、明らかになったシナリオは以下の様なものだ。
1) 皮質神経細胞のIL-17Rをノックアウトすると、Cortical Patchの形成を予防でき、母体の炎症の影響を受けなくなる。すなわち、母体でIL-17が上昇するのを止めるのが予防になる(個人的見解:IL-17に対する抗体は現在治療に使われていることを考えると、母体が感染したとき、この抗体を利用することも考えられる)
2) IL-17Rを発現した神経細胞が刺激されることで、体性感覚野では介在神経が特異的に減少し、その領域の神経活動が生後も高まった状態が続く。
3) 正常マウスの体性感覚野の神経興奮を光遺伝学的に高めると、社会性の低下、繰り返し行動などの異常が出る。また、介在神経の活性を低下させても同じ様な行動異常がみられる。要するに、炎症に起因する体性感覚野での抑制性介在神経活動の低下が、この領域の興奮を高め行動異常につながる。
4) 逆に炎症により誘導された行動異常は、この領域の神経活動を抑えることで予防できる。
5) 体性感覚野の神経細胞は、側頭部連合野と線条体に神経線維を伸ばしているが、側頭部連合野との結合が社会性を支配し、線条体との結合が繰り返し運動を支配することを、やはり光遺伝学的手法による神経刺激で確認している。
以上、炎症から回路異常誘導、生理学的過刺激による行動以上まで、動物モデルとはいえブラックボックスを開けてくれた。しかも、妊娠時、及び生後の様々な介入可能性を示唆している。モデルマウスでも自閉症スペクトラム研究にとってこれだけ大きな貢献ができることを示した重要な論文だと思う。
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