今日紹介するワシントン大学からの論文は神経細胞がリンパ球刺激サイトカインIL-4に直接反応することがかゆみの原因であることを突き止めた研究で9月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Sensory neurons co-opt classical immune signaling pathways to mediate chronic itch(感覚神経が古典的免疫シグナルを慢性のかゆみを媒介するために使っている)」だ。
この研究では免疫反応でリンパ球に働くサイトカインが直接神経に働く可能性を調べるため、神経細胞に出ている炎症局所に発現するインターリューキンンの受容体をしらべ、IL-4,IL-13の受容体が感覚神経で発現されていることを突き止める。
次に、感覚神経を分離して直接IL-4,IL-13で刺激する実験を行い、ヒスタミンやカプサイシンに反応する小型の神経細胞がIL-4,IL-13に反応し、同時にヒスタミンにも反応できることを明らかにした。さらに、このシグナル伝達にTRPV1チャンネルが関わることをノックアウトマウスで確認している。ところが、マウス皮膚を直接IL-4,IL-13で刺激してもすぐにかゆみが誘導するわけでないことも分かった。
そこで、サイトカインは神経に直接働いても、かゆみ感覚を誘導するのではなく、かゆみが起こる閾値を下げ慢性的なかゆみの原因になるのではと考え、感覚神経でIL-4受容体が欠損したマウスでアトピー性皮膚炎を誘導しかゆみの反応を調べると、かゆみが強く押さえられるだけでなく、炎症そのものも抑えられることがわかった。そこで、IL-4受容体の下流にあるJAK1をやはり感覚神経でノックアウトすると、同じようにかゆみが抑えられること、またJAK1阻害剤を全身投与してもかゆみを抑えることを確認している。
ここまでは、確かに面白いが、別に驚くほどの論文ではなく、トップジャーナルに掲載されるところまでには行かない。しかし、この論文では、炎症反応が強くなく、原因のわからない慢性のかゆみを訴える患者さん(Chronic idiopathic puritus)にJAK阻害剤を服用させると、調べた5人全てでかゆみが抑えられることを示している。実際このような病態は、老人で見られることが多く治療法がほとんどなかった。おそらく、このunmet needsに答えたという点を評価されたのだろう。とはいえ、JAK1阻害剤を長期に老人に投与しても問題ないかどうかは今後調べる必要がある。
これまで神経細胞がインターリューキン受容体を発現していることは報告されてきたが、病気治療にまで成功した話は、私の知る限りこれが最初のような気がする。
カテゴリ:論文ウォッチ