とはいえ、生活スタイルで細菌叢の構成が大きく変わることは確かなので、これまで生活スタイルが先進国とは大きくかけ離れた民族の研究から何かヒントが得られないか調査が行われている。今日紹介するスタンフォード大学からの研究もそんな一つで、農耕に携わらず、古代の生活を続けているハッツア族の便を集め、季節変化を調べている。タイトルは「Seasonal cycling in the gut microbiome of the Hadza hunter-gatherers of Tanzania(タンザニアの狩猟採集民ハッツァ族の腸内細菌叢の季節変化)」だ。
腸内細菌叢の研究を読むときの最大の問題は、生データまでさかのぼることはないので、結局著者らの結論に誘導されてしまうことだ。私も例外でないので、前もって断っておく。
伝統的生活を続けるハッツァ族はもう200人に減っているようだが、乾季には主に狩りで得た動物中心、雨季には蜂蜜や木の実を中心の食生活を送っている。この研究では27人のハッツァ人から季節ごとに350の便サンプルを集め、そのまま液体窒素に入れて研究室へ持ち帰り、リボゾームの標準配列を用いたメタアナリシス、場合により全ゲノムのショットガン解析を行っている。
結果は期待通りで、腸内細菌叢は季節ごとに大きく変化する。面白いのは肉食が中心になる乾季には、現代人に近づく。全ゲノム解析で細菌叢の代謝経路を再構築して調べると、不思議なことに動物タンパク質を食べる乾季には食物繊維を処理する細菌叢の機能も同時に高まる。一方、現代人で高い肉食に関わるムチンなどの代謝経路は、雨季、乾季を問わず低いままで、肉食と言ってもハッツァの場合基本は食物繊維が中心であることがよくわかる。雨季ではあらゆる細菌叢の機能が低下しているのも面白い。乾季はよく食べるが、雨季には食が細るという印象を持った。
最後に、どの細菌叢の変化が多いかについて検討し、変化のほとんどは都会人にはほとんど存在しない細菌が季節変化の主役になっていることを示している。
結論としては、食生活が細菌叢を変化させる原動力であるという当たり前の結論になる。また研究自体は現象論で終わっている。
そろそろ、トップジャーナルもハードルをあげて、現象論だけでなく、なぜ特定の細菌が現代人では消えてしまったのか、さらに古代型の細菌叢は健康にいいのか悪いのか、など因果性の問題に突っ込んだ論文でないと採択しないようにするのがいいように思う。
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