今日紹介するアイスランドにあるアムジェン社の研究所(以前はデコード社)からの論文は、このような研究の一種の集大成版で、国民のゲノム解読が進むアイスランドならではの研究だ。タイトルは「Parental influencee on human gremline de novo mutations in 1548 trios from Iceland (人間の生殖細胞系列に新たに生じる突然変異に及ぼす親の要因、アイスランドの1548組の親子での研究)だ。
生殖細胞形成過程で生じる突然変異は、両親と子供のゲノムの塩基配列を比べることで特定できる。子供で染色体の由来を父方、母方と特定できることから、これにより精子形成で生じた突然変異と、卵子形成及びその維持過程で生じた突然変異を区別して特定することができる。
まず突然変異全体の頻度を精子形成、卵子形成別々に算定すると、予想どおり成長後も分裂を繰り返すことで形成される精子由来(父親由来)の突然変異の頻度が母方由来の染色体より4倍以上高い。これは、私たちの細胞に起こる突然変異の大部分がDNA複製時の修復の失敗によることを考えると当然の話だ。重要なことは、父親の年齢とともに突然変異の頻度も上昇する。実際、20年経つと全突然変異の数は倍になる。一方、一旦作られたあと増殖しない卵子由来の染色体では、突然変異の上昇は緩やかだ。
次にどのタイプの突然変異が起こっているのかを調べている。これにより、突然変異の原因をおおよそ特定できる。例えば分裂期の修復ミスによる突然変異は女性では年齢とともに低下する。ところが、C>G型の変異が女性だけで年齢とともに上昇し、この変異は染色体の特定の部分で濃縮していることが明らかになった。 特定の部位に濃縮するC>G型の突然変異については、おそらく形成された卵子が長期間卵巣で維持される間に染色体に長期のストレスがかかりDNAが切断される結果ではないかと結論している。面白いのは、特定の染色体部分に濃縮するこのタイプの突然変異は、オラウンタンには存在せず、ゴリラから人間までに見れることで、ストレスを受けやすい染色体構造は最近の進化の結果であることがわかった。
専門的には重要な研究で、特にゲノムの変異から年代測定をする場合にはこの結果を無視して行うわけにはいかないだろう。しかし、一般の人にとっては、男性も女性も子供はできるだけ早いうちに造ったほうがいいということが重要な結論になるだろう。
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