今日紹介する論文はT細胞の分化系を用いて、エンハンサーの核内局在の変化に関わるメカニズムをかなりのレベルまで明らかにした論文で9月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Non-coding transcription instructs chromatin folding and compartmentalization to dictate enhance-promoter communication and T cell fate(ノンコーディングRNAがクロマチンの折りたたみを指示することでエンハンサーの(核マトリックスへの)区画化を変化させ、エンハンサーとプロモーターの相互作用を誘導、その結果としてT細胞の運命が決定する)」だ。
この研究ではT細胞分化のDN2と呼ばれるステージについて領域間の接合状態を調べ、Bcl11bと呼ばれるT細胞運命決定に関わる遺伝子のエンハンサーが核膜マトリックスから核内に移行することを確認し、研究をスタートさせている。
最初からノンコーディングRNAの役割が頭にあったと思うが、2箇所のエンハンサー近くでノンコーディングRNAが転写されることを突き止め、そのうちThymoDと呼ばれるRNAの転写が途切れる細工をすると、T細胞分化がDN2で停止し、最終的に白血病が発生することを示している。この結果、エンハンサー近くでRNAが転写されることで、エンハンサーが核膜近くの抑制性の区分から解放され、運命決定因子の転写が始まり、分化が進行するというシナリオが確認された。
詳細は省くが、この研究のハイライトはエンハンサーが解放されるメカニズムをかなりの程度明らかにしたことだ。この結果、1)ThymoDの転写により、メカニズムは明らかではないがDNAのメチル化を外すTetタンパク質が、ゲノムの折りたたみに関わるCTCFやcohesin結合部位にリクルートされる、2)この結果CTCF結合部位のDNAメチル化が外れ、3)結果CTCFとcophesinの結合が高まり、DNAのルーピングが促進する、4)この構造変化によりそれまで核膜マトリックス内にトラップされていたエンハンサー部分がマトリックスから解放され、5)Bcl11b遺伝子の転写がオンになり、6)T細胞分化が進むことを示している。また、この機能に必要なノンコーディングRNAはセンスでもアンチセンスでもよいことを示し、突然変異でノンコーディングRNAがオンになったりオフになったりすることが、発がんにも重要な働きを演じていることを示唆している。 予想していたが、他の系列と比べると、リンパ系分化はゲノムの構築や染色体構造を調べるのに優れた系になってきた。この分野では我が国は遅れを取ってきたが、この論文の筆頭著者も磯田さんという日本の研究者なので、この領域を熟知した若手が今後は増えてくるのではと期待している。
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