今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、発生時期の脳幹細胞でRNAメチル化酵素Mettl14をノックアウトしたら何が起こるかとりあえず調べてみたという研究で11月2日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Temporal control of mammalian cortical neurogenesis by m6A methylation(m6Aメチル化は哺乳動物の皮質神経形成の時間経過をコントロールする)」だ。
著者らが、最初からradial glia cell(RGC)として知られる幹細胞から皮質神経の時間コントロールを研究したかったのかどうかはよくわからないが、私たちの脳皮質の美しい層構造は、時間に合わせて順次細胞の増殖と移動を調節する事はよく知られている。従って、自分が興味を持つ分子が脳幹細胞にさえ発現しておれば、当然この系で影響を見たいと思う。実際、メチル化に関わる酵素Mettl14などの脳幹細胞での発現は高い。そこで、脳幹細胞だけでMettl14をノックアウトすると、マウスは生後25日前後で死亡することから、皮質の発生に何らかの役割を演じていることが確認された。
脳を調べてみると、幹細胞が存在する脳室周辺が拡大し、一方皮質表層部の分化細胞の形成が低下していること、そしてこれが幹細胞での細胞周期の遅れによることを発見している。はっきりしているのはここまでで、なぜ細胞周期が遅れるのかについては、メチル化ができなくなり、発生過程で決められた特定のRNAの寿命が長引いて、その結果細胞周期が遷延し、分化に必要な新しい転写が抑えられてしまうと結論している。すなわち、メチル化は発生過程で決まるmRNAに特異的で、これにより素早いRNA除去を行うことで、次の転写を促すという話になる。しかし、示されたデータから見ると、少し強引すぎる結論に思える。
おそらくこの話だけでは、論文は掲載されなかったのだろう。最後に、人間の脳皮質発生でメチル化されるRNAを調べ、同じように細胞周期や、幹細胞活性に関わるRNAが特異的にメチル化されていることを示すとともに、その中に統合失調症や自閉症スペクトラムの遺伝子が含まれていることを示している。
合わせ技一本で論文を通した感じだが、一つの遺伝子の異常で理解することが難しい統合失調症などが浮かび上がってきたことは、将来につながる結果かもしれない。
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