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10月29日:ラットの脳波を調べる(10月20日Science掲載論文)

2017年10月29日
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何百もの微小電極を脳に留置して長期間モニターすることが可能になり、例えば脳内に実際に迷路の空間パターンを見ると言った、古典的な一個の神経記録を重ねる方法ではわからない神経活動パターンが明らかになり、脳科学は大きく進展した。しかしこの方法を人間に使うことは原則難しい。人間でも、癲癇の発生場所を特定するため、このようなクラスター電極が埋め込まれることもあり、その機会を利用した研究も行われているが、普及はできない。このため、PET, MRI、近赤外イメージングそして脳波が現在も人間の脳活動モニター方法の中心だ。中でも、脳波は脳の電気活動を反映しているため、うまくここの神経活動との対応がある程度つけば、その重要性は増す。中でも最初癲癇の重要症状として明らかにされたrippleと呼ばれる高周波の発生は、睡眠中の記憶の固定するための脳活動を反映することがわかってきた。ただ、動物では脳波はポピュラーでないため、動物モデルとの対応はできていなかった。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はNeroGridと呼ぶ電導性有機物を用いたディテクターを用いて、脳表面のフィールド電位と単一細胞からの活動を睡眠中にモニターし、rippleが本当に脳内各領域のコミュニケーションを反映しているのか調べた研究で10月20日号Scienceに掲載された。タイトルは「Learning-enhanced coupling between ripple oscillations in association cortices and hippocampus(連合皮質と海馬のripple振動の連動により学習が促進される)」だ。

NeuroGridでnon-REM睡眠中の脳表面のフィールド電位を広い範囲で同時記録し、各領域間の同調性を調べたのがこの研究のすべてだ。海馬と皮質の各領域、特に頭頂部や正中部で同調したripple を観察することができる。しかし、体性感覚野とは全く同調しない。実際、14%の海馬でのrippleは50ms以内の時間差で皮質でも観察され、両者で結合し、同調したシグナルを送り合っているのがわかる。また脳波全体が上振れするときに、皮質のrippleが発生することがわかった。そして、細胞レベルでは錐体細胞と介在神経細胞の両方の活動が、ripple型にロックされていることを明らかにしている。

最後に、では学習により皮質と海馬でrippleが上昇するか、迷路を学習する課題を行わせたラットを用いて調べ、迷路学習を繰り返すことで海馬と皮質の同調した活動の頻度が上昇することを示している。
話は以上で、これまでの研究から期待された通りの結果と言えるだろう。確かに、睡眠中のスパインの変化まで見ることができる世の中に、この方法は少し古典的に見えるかもしれないが、私はフィールド電位と神経細胞活動を対応させられる点で、人間の脳波理解には欠かせない技術になるように思っている。
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