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10月22日:p53機能を復活させる創薬(Natureオンライン版掲載論文

2017年10月22日
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Ras分子と共に、多くのがんで変異が見つかるのがp53だが、前者はガンのドライバーで増殖を促進する一方、p53は増殖抑制するガン抑制遺伝子として知られる。変異により機能を失うことで増殖抑制のはずれるガン抑制遺伝子の治療にはその機能を回復させることが必要になる。この目的で、遺伝子治療に期待が集まっているが、これまでの研究で詳細が明らかになったp53のユビキチン化による分解を行う主要分子MDM2機能を阻害して、p53分解を抑える方向の創薬開発も進められている。

今日紹介するのはCancer Research UK傘下のバイオベンチャーCRUK Therapeutic Discovery Laboratoriesを中心に、英国の大学、そしてアメリカのバイオベンチャーが協力してp53活性を上昇させる化合物を特定した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Molecular basis of USP7 inhibition by selective small-molecule inhibitors(特異的低分子阻害剤によるUSP7阻害の分子基盤)」だ。

まずタイトルにあるUSP7について説明しよう。P53はMDM2によりユビキチン化され分解される。このMDM2が自分でユビキチン化して分解されるのを脱ユビキチン化して防ぎ、p53の脱ユビキチン化にも関わる2面性を持った脱ユビキチン化酵素がUSP7だが、がん細胞を用いた研究からUSP7を阻害してMDM2が分解されれば、p53の分解は押さえられることがわかっている。またユビキチン化経路は創薬標的となることがわかってきたため、多くの製薬会社がUSP7阻害剤の開発に関わってきている。

この研究グループの用いた方法は極めてオーソドックスだ。まず、アメリカのFORMA Therapeuticsの持つ50万の低分子化合物をユビキチン化阻害アッセーを用いてスクリーニングし、2種類の化合物がヒットしてきている。そのうちFT671はナノモルレベルの阻害活性を持ち、38種類の脱ユビキチン化酵素のパネルで調べると、USP7特異的であることがわかった。

次に、FT671が結合したUSP7を結晶化して構造解析を行い、詳細は省くが、なぜFT671が高い親和性を持ち、またUSP7特異的なのかを明らかにしている。おそらくこのデータは、今後この分子をさらに効果の高い薬剤へと仕上げるためには重要な役割を果たすと思う。

さらに念の入ったことに、構造からわかったUSP7部位の変異体を作り、USP7が作用するメカニズムを解明するとともに、確かにFT671がUSP7の不活性化型から活性化型への変化をブロックすることを確認している。

その上で、これまでUSP7をノックダウンすると細胞の増殖が止まるがん細胞株を用いて、このリガンドがp53の発現量を回復させ、下流の遺伝子が活性化され、増殖を抑えることができることを示している。また、毒性も確かめるために、マウスにガンを移植して、ガンの増殖は抑制されても1ヶ月経た段階ではマウスに毒性は見られないことを示している。

示されたデータをみると、増殖抑制効果は完全でなく、この治療だけでは再発すると思うが、ドライバーとガン抑制遺伝子に対する同時治療という見地からは大きな前進だと思う。これほどオーソドックスな方法で見つかるなら、多くの製薬企業でも開発できているはずで、多くのガン患者さんに使われる日を期待している。
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