今日紹介する北海道大学からの論文は、少なくともGvHによる腸管症状を腸管幹細胞のパネット細胞への分化増殖を誘導することで抑えることができることを示した研究で、動物モデルでの結果とはいえ、重要な研究だと思い紹介する。論文のタイトルは「R-spondin1 expands Paneth cells and prevents dysbiosis induced by graft-versus-host disease(R-spondin1はPaneth細胞を増やしてGvHにより誘導される腸内毒素症を防ぐ)」で、Journal of Experimental Medicineオンライン版に掲載された。
もともとこのグループは、マウスで組織適合性が一致しないT細胞を移植してGvHを起こすと、細菌に対する防御因子であるディフェンシンを分泌するPaneth細胞が強く障害されることを明らかにしていた。一方、腸管の幹細胞のWnt依存性の増殖をR-spondin1が誘導することはCleaversらの研究を中心に明らかにされていた。そこで、GvHの障害を腸の幹細胞刺激で治せないかとまずR-spondin1を正常マウスに投与してみると、期待どおりPaneth細胞が増殖し、またデフェンシンの発現が高まることが明らかになった。
この結果から、GvHによる腸管症状が、Paneth細胞の損傷と、それによるデフェンシン分泌の低下、その結果起こる腸内細菌藪の変化により起因すると仮説を立て、次にこの可能性について実験している。期待どおり、GvHを誘導したマウスでもR-spondin1を投与すると腸管の障害を、特にPaneth細胞のロスを抑える。その結果、GvHにより起こる腸内細菌叢の構成の変化をほぼ元に戻すことができることを示している。一方、正常マウスの腸内細菌叢に対してはR-spondin1はほとんど何の効果もないことから上記の効果がGvHにより喪失するPaneth細胞の再生を促す効果であることを確認している。
このシナリオが正しいとすると、デフェンシンを投与するだけでGvHの腸管症状を抑えることができるはずで、この可能性について確かめている。GvHを誘導したマウスに経口でデフェンシンを投与すると、1週間目にはBactericidesやEnterobacterialesなどの増殖を止め、注射したドナーのT細胞の浸潤を低下させるが、R-spondinと比べるとその効果は低い。
以上のことから、R-spondinの効果は腸内細菌叢の変化を介してだけではなく、腸上皮の再生を促すことで起こる要素も大きいと結論している。この研究では、腸管の解析のみが行われており、Wntを刺激してGvHの全身症状はどうなのかなど、明確でない点も多い。従って、そのまま臨床に持っていけるかどうかよくわからないが、局所的に腸の幹細胞に対する刺激が可能になれば、GvHにR-spondinも悪いアイデアではない。
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