今日紹介する論文は、6月にHippoシグナルによる心筋再生抑制について論文を発表していたグループが、心臓再生を抑えるHippoシグナルの下流の一つParkin2の機能について明らかにした研究で、前回の続きと言っていい。タイトルは「Hippo pathway deficiency reverses systolic heart failure after infarction(Hippoシグナル経路は、梗塞後の心不全を元に戻す)」で、本日発行のNatureに掲載されている。
この研究でも、心筋の再生抑制を外すため、Hippoの下流のsalv遺伝子を任意の時期に心筋特異的にノックアウトできるマウスを作り、心筋梗塞を起こしてから3週間目にSalvをノックアウトすると、さまざまな生理学的、組織学的指標での回復がなんと90%近いマウスで見られ、その中の10%のマウスでは、瘢痕が全くない完全な回復が見られることを示している。これらの実験から、梗塞部位の境界に存在する心筋細胞は、Hippoシグナルを抑制すれば、増殖し、心筋再生が起こることは、少なくともマウスでは確実といえるだろう。
この時増殖を始めた心筋細胞を取り出して遺伝子発現、特に新たに転写が始まった遺伝子を調べると当然のことながら増殖に関わる遺伝子や、心筋の機能に関わる遺伝子が上昇し、転写や代謝に関わる遺伝子の発現が低下している。ただこの結果だけでは、再生していることを反映しているだけで、特に新しいことは言えない。
そこで、Hippoの下流で抑制され、Salvノックアウトで上昇している、傷ついたミトコンドリアを処理するときに働き、変性疾患で特に注目される分子Park2に集中して、この分子の発現上昇が必要かどうか調べ、再生が起こるSalvノックアウト心筋では再生力が落ちることを観察している。面白いのは、Parkin2が欠損する心臓では、瘢痕化が抑えられる。一方、Salvは正常でParkin2欠損マウスでは、瘢痕化を防げない。従って、今後Agrinでも他の方法でも、心筋梗塞の治療が行われるようになった時、この事実は重要な課題になるかもしれない。
話はこれだけで、前の論文と比べると、3週間後にHippo経路を阻害することでかなりの回復が得られるという結果と、Parkin2の瘢痕化の話の合わせ技で採択された印象が強い。またAgrinについては一言の言及もないのが気になる。とは言えもし、AgrinがHippo経路と繋がるなら、心筋梗塞の治療可能性をさらに確実にし、治療標的分子の可能性を広げることになる。期待したい。
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