私は地震についてはもちろん素人だが、大きな地震が人間の経済・軍事活動により誘発されるのではと言う懸念は常に頭の隅にある。例えば昨年、東日本大震災後の歪みにより、白頭山の噴火レベルが危険域に達してきたことをこのブログで紹介した(
http://aasj.jp/news/watch/5160)。先日、北朝鮮が中朝国境に近いブンゲリで核実験を行った話を聞いた時、白頭山の噴火とその後の火山性地震を誘発するのではないかと、心配してしまった。ただ、これは決して私だけの懸念でなく、人為的要因で起こる地震については地震研究者も心配しているようだ。
今週号のNatureを読んでいる時、「Risk of human-triggered earthquakes laid out in biggest-ever database(これまで最大のデータベースにより人為的に誘発された地震の危険が示された)」というAlexandra Witzeさんのレポートが目に止まった。この記事は、人為的に誘発された地震のデータベースについて報告している英国Durham大学からの論文についてレポートしている。元の論文のタイトルは「HiQuake: The human induced earthquake database(人間により誘導された地震のデータベース:HiQuake)」で、Seismological Research Lettersオンライン版に掲載されている。
もともと人工地震で地質を調べることは珍しい話ではなく、人間の経済・軍事活動が地震を誘発することは昔から懸念されていたようだ。特に最近、シェールガス採掘などで大量の水を地中に注入し、また急速に抜く大規模な地殻操作が頻繁に行われるようになり、これが地震を誘発するのではと言う懸念が生まれ、その安全性を確認するためのデータベース構築の要求が高まっていた。
この要望を受けて、昨年オランダ最大の天然ガス田を運営するガス採掘会社の助成で英国のDurhamとNewcastle大学がマグニチュード1以上の人為的要因による地震のデータベースHiQuake構築を進め、今年の1月に一般公開できるところまでこぎつけた。データベースは一般に公開されており、ウェッブサイトで誰もが情報を得ることができる(
http://inducedearthquakes.org/)ので、読者の皆さんが閲覧されればいいのだが、幾つか論文を読んだ上で補足をしておこう。
1) データベースに収載された地震で、人為的要因の関与程度は完全に科学的に特定されているわけではない。
2) それでも150年間に人為的要因が疑われる地震が700以上起こっおり、人為的要因としては鉱山事業、大規模ダム貯水、石油・ガス採掘で半分以上を占める。
3) ほとんどのケースで人的被害のない小さな地震で終わっているが、地中への水の注入により誘発されたM5.8の地震(2016)、大規模ダム貯水により誘発されたM7.9四川地震(2008)、そして地下水のくみ上げが誘発したと考えられるM7.8ネパール地震(2015)なども含まれており、大規模な地殻の操作は常に地震の危険と隣り合わせだ。
4) 我が国での地震についても22ケースがリストされているが、最も大きなものでM4程度で、大地震と言われるケースとの関係はこれまで特定できない。
などが言えるだろう。
素人の私だけでなく、プロの地震学者も人為的要因による地震を研究することの重要性を力説しているようで、少し安心した。
哺乳動物の場合、性決定にY染色体が関わっているが、ショウジョウバエや、線虫ではX染色体と、常染色体の比によって個体の性が決まる。詳細を飛ばしてザクッと言ってしまうと、普通はX染色体の数だけで性が決まる。このように最終的な性決定の仕組みは異なるが、これらの種共通の問題は、X染色体の数がオス、メスで違ってしまうことだ。そのため、X染色体上の遺伝子の発現を調節する仕組みをそれぞれの種は開発している。哺乳動物では、DNAのメチル化を利用して片方のX染色体全部の発現を抑えるX染色体不活化方法を取っているが、ショウジョウバエ、線虫などそれぞれメカニズムは異なっている。
今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、線虫でこの問題を研究する中で、新しいヒストン脱メチル化酵素DPY21を特定し、そのX染色体遺伝子発現量調節機能を明らかにした力作で、9月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Dynamic control of X chromosome conformation and repression by a histone H4K20 demethylase(ヒストンH4K20脱メチル化によるX染色体構造と発現のダイナミックな調節)」だ。
線虫ではオスメスではなく、X染色体が2本の両性具有体と一本のオスに分かれており、両性具有体でX染色体の遺伝子発現を半分に低下させる必要がある。このメカニズムは詳しく研究されており、rexと呼ばれる場所を起点に多くの分子から構成されるDCC複合体が結合し、X染色体全体の転写を半分に抑えている。またこの時、X染色体特異的に20番目のリジンが一つだけメチル化されたH4ヒストンが染色体を覆うことがわかっている。ただ、これまでDCC複合体の中にヒストンのメチル化や、脱メチル化に関わる酵素は見つかっていなかった。
この研究では、DCC構成タンパク質の配列や構造を詳しく検討し、DPY-21がヒストン脱メチル化活性を持っているのではと着想し、期待どおりこの分子がH4K20にメチル基が2/3個付いたH4K20me2/3のメチル基を外してH4K20me1に変化させる活性があることを突き止める。
はっきり言って、この発見がこの研究の全てと言っていいだろう。あとはPY-21が実際に脱メチル化活性がX染色体の遺伝子発現調節に関わっていることを、酵素活性部位を失った遺伝子を導入した線虫を用いて調べている。結果を箇条書きにまとめると、
1) H4ヒストンのうちH4K20me1はX染色体上で、常染色体の2倍多く存在している。
2) このX染色体特異的変化は、すべてDPY-21の脱メチル化活性によっている。
3) このメカニズムは、200細胞期を超えた後、体細胞のみで働き、特に細胞周期の間期に働いている。
4) 脱メチル化活性がなくなると、X染色体上の遺伝子発現のみ上昇し、さらに普通はこの機構が働かないXが一本のオスで働くようにすると、遺伝子の発現が低下してオスは死んでしまう。
5) H4K20me1は染色体の3次元構造を調節して、エンハンサーとプロモーターの相互作用を変化させ、微妙な遺伝子発現調節を行っている。
6) 生殖細胞での遺伝子発現にも同じメカニズムがDCC非依存的に利用されている。
になるが、全てDPY-21がH4K20特異てき脱メチル化酵素であることの発見あっての結果だ。
この論文では、哺乳動物に存在する同じ活性を持った酵素も特定しており、哺乳動物でのH4K20me1の機能も明らかになると思うが、染色体の3次元構造を変化させて、インシュレーターの作用を調節するという魅力的活性があることから、急速に研究が進む予感がある。