今日紹介するオランダ・ライデン大学を中心にした論文は、赤血球から白血球も取り除いて免疫機構が関与しにくいオランダの輸血システムでもこの問題があるのかを調べた大規模調査で10月17日号の米国医師会雑誌に掲載された。タイトルは「Association of blood transfusion from female donors with and without a history of pregnancy with mortality among male and female transfusion recipients(輸血を受けた男女の死亡率と女性輸血ドナーの妊娠経験の相関)」だ。
研究はシンプルで、オランダの大きな医療組織6カ所で初めて輸血を受けた患者さんの記録を2005年から、2015年まで10年にわたって調べ、単一のドナーから輸血を受けたケースを拾い出して、ドナーの性別、女性の場合は妊娠経験と、輸血を受けた後約1年目の死亡率を病気や死亡原因に関わらず算定している。したがって、ほとんどは輸血が原因で死亡したとはされていないと思う。
現代の医学で輸血を受けるということ自体が深刻な事態であることを反映して、単一ドナーからの輸血を受けた患者さんの1年目の死亡率は17%と高い。その中で、死亡率が統計的に間違いなく高いといえる組み合わせは、妊娠経験のある女性から男性の組み合わせであることが明らかになった。
内訳を詳しくみると、50歳以降に輸血を受けた男性ではほとんど死亡率は上がらず、若い患者さん、特に17歳より若い場合はオッズ比で、単一ドナー複数回輸血で1.65、単一ドナー一回輸血でなんと2.84に上昇している。
以上が結果で、妊娠経験のある女性の血液を50歳までの男性に輸血すると死亡率が高まること、白血球を除去する操作で血清の持ち込みが低い今回の研究でも確認されるため、この現象を単純に抗体や混じっているリンパ球のせいにすることが難しいことが明らかになった。
では何が原因か?例えばドナーが鉄欠乏症に陥っている確率が高いことや、赤血球自体に男女差があるのかなど様々な可能性は考えられるが、謎は深まるばかりだ。
ただ妊娠経験のある女性からの輸血はできるだけ避けるとなると、病気の我が子への母親からの輸血ができなくなる。悩ましいところだ。現実的には、母親から輸血するとちょっと副作用が高いことを念頭に置いて、父親など代わりがあればそちらを選ぶが、止む上ない場合はお母さんからの輸血を躊躇する必要はないだろう。
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