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2月7日:臨床に依拠したガンの間質の研究(2月8日号Cell掲載論文)

2018年2月7日
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ガンの間質によりガンの幹細胞のニッチが形成され、抗がん剤の抵抗性が生じてガンを根絶できないというシナリオが提唱されて久しいが、現象論的にこれを支持する研究は数多く出されても、このシナリオから治療可能性を引き出せた研究にはほとんどお目にかかっていない。

今日紹介する中国・広州の中山大学からの論文は乳ガンで手術前に行われるアジュバント治療をうまく利用してガンの幹細胞を支える間質細胞を特定し、ガンの治療抵抗性に関わるメカニズムを特定し、治療可能性まで明らかにした力作で2月8日号のCellに掲載された。タイトルは「CD10+GPR77+ cancer associated fibroblasts promote cancer formation and chemoresistance by sustaining cancer stemness(CD10+GPCR77+ガンの間質はガンの幹細胞性を維持してガン形成と化学療法抵抗性を促進する)」だ。

すでに述べたように、この研究では乳ガン患者さんのアジュバント治療の前にバイオプシーで間質を採取、その後常法通り手術で摘出した乳ガン組織でガンが完全に消失していた群と、ガンが残存していた群の間質を比較している。アジュバント治療前のバイオプシーでは間質に特に違いは見られなかったが、治療後ガンが残存していた間質はCD10とGPR77が強く発現していることを発見する。

さらに、手術後の経過を調べるとCD10+GPR77+間質の比率が多い患者さんでは、予後が悪いことを明らかにし、このマーカーがガンを悪性化させる間質マーカーとして利用できることを示している。

これだけでも重要な発見だと思うが、次にCD10+GPR77+間質細胞上でガンを培養する実験、あるいは、CD10+GPR77+間質細胞とガンをマウスに注射する実験を行い、CD10+GPR77+間質が乳ガンだけでなく肺がんでもガンの化学療法抵抗性の元凶であることを突き止めている。また、この間質とともにマウスにガンを移植することで株化できることも示している。

そして、この治療抵抗性の原因を探り、ADH+のガンの幹細胞がCD10+GPR77+間質細胞があると守られ増殖をすることを突き止め、ガンの間質がガン幹細胞のニッチを提供するというシナリオが、乳ガンで成立することを示している。

最後は、CD10+GPR77+がガン幹細胞を維持する分子メカニズムの解明で、ガンの幹細胞の維持にNFkBにより誘導されたIL-6,IL-8が関わり、これらの中和抗体でガン幹細胞の増殖を抑えることができること、さらにGPR77はリガンドであるC5の刺激によりNFkBシグナルに関わるp65をアセチル化することで、持続的なNFkBシグナルを誘導し、IL-6,IL-8の転写及び、GPR77自身の転写も促進することで、ガンを支持し続けることを示している。もちろん、マウスに患者さんのCD10+GPR77+間質細胞とガンを移植する実験で、GPR77抑制によりガン幹細胞の増殖維持を阻害することができることを示し、新しい治療可能性を示唆している。

全て実際の患者さんの間質やがん細胞を用いた、臨床的視点に基づく研究で、

1) 予後を予測する間質マーカーを明らかにした。
2) CD10+GPR77+間質を用いると、患者さんのがん細胞を株化できる。
3) ガンの幹細胞と間質の相互作用の分子基盤を明らかにした。
4) それに基づき、様々な治療可能性を示した。
と、前臨床研究としては完璧なレベルに達している。やる気であれば、すぐに治験へと進むことができる、臨床的視点に依拠したいい研究だと思う。
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