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2月3日 Notchシグナル伝達様式の解明(2月8日号Cell掲載論文)

2018年2月3日
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シグナル伝達経路の中で最も分かりにくいのがNotchだろう。Notchも、そのリガンドも膜結合分子で、一つのノッチを複数のリガンドが刺激できる。しかも遺伝子操作で一つのリガンドを他のリガンドに置き換えると、正常に発生できなくなる。極め付けは、リガンドと結合した後、γシクレターゼで切断され、核に移行することでシグナルが伝達される。とすると、同じ受容体でリガンドの違いを表象できるのか?こんな重要な疑問をすべて棚上げして、発生学者や血液学者はNotchシグナルの役割を研究してきたが、考えてみると冷や汗が出る。

このNotchシグナルに関わる疑問を見事に解決した論文がカリフォルニア工科大学から2月8日号のCellに発表された。タイトルは「Dynamic ligand discrimination in the Notch signaling pathway(Notchシグナル伝達経路でのダイナミックなリガンドの区別)」だ。

Notchには4種類あるが、研究ではNotch1とそのリガンドDll1とDll4について調べている。入り口と出口をうまく区別して、工夫を凝らした実験系をそれぞれに設定するプロの仕事の印象を受ける。

まずNotchが膜で切断され、核に移行して転写を活性化するプロセスを蛍光でダイレクトに測れるようにしてDll1とDll4のシグナルを比較すると、Dll1ではシグナルが一過性のパルス状である一方、Dll4では持続的であることを発見する。さらに、刺激側の強さを操作する実験で、Dll1の刺激は一過性のパルスの数が増加する一方、Dll4では持続的な刺激のレベルが増加することを発見する。これがこの研究のハイライトで、あとはこの異なる様式の刺激の効果、またこの様式を生み出す分子メカニズムについて研究している。

まずパルス状の刺激と、持続的な刺激が実際の転写にどう反映するかを、下流の分子誘導を指標に調べ、Hes1シグナルはNotchが切断されるとすぐに反応して上昇し、その後低下するのに対して、Hey1, HeyLは2時間以上経ってから上昇し、持続的に維持されることを明らかにする。すなわち、Dll1とDll4による刺激の様式の違いが、Hes1とHey1の発現パターンに置き換わることを発見する。

次にニワトリ胚の体節形成を指標に、Dll1、Dll4の刺激を調べ、Hes1とHey1の発現パターンが予想通りになっていること、その上で筋肉への分化がDll1では促進、Dll4では抑制されることを明らかにしている。
そして最後に同じNotch分子が切断されるだけなのに、なぜこのような刺激様式の差が生まれるのか検討するために、リガンドの細胞質領域を入れ替える実験を行い、Dll1の細胞質領域はNotchと結合したとき重合体を形成してから切れるため、細胞質内領域が塊で放出されることで一過性のパルスを発生しているが、Dll4では単体での結合により切断されるため、Notchの量依存的持続シグナルが発生することを示している。

もちろん、モデル系での話で修正が必要かもしれないが、初めてNotchシグナルについて理解することができたと満足した。この結果を念頭に、発生学者ももう一度それぞれの対象を見直してみることが必要だろう。
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