この論文を紹介するとき、立ちすくみの原因はまだよくわかっていないと書いたが、今日紹介するコロンビア大学とポルトガルのChampalimaud研究所からの論文はドーパミンニューロンの運動に対する機能を詳しく研究した力作で、これを読んで初めて立ちすくみが理解できる気がした。論文は今週号のNatureに掲載され、タイトルは「Dopamine neuron activity before action initiation gates and invigorates future movements(行動開始前のドーパミン神経の活動が将来の動きを強める)」だ。
研究は全て操作が容易なマウスを使っている。したがって、この研究がそのままヒトに当てはめるのは注意が必要だ。ただ、データは病気を理解する上で参考になることまちがいない。まず自由に動き回るマウスのドーパミン神経(DN)を記録できるようにして、運動とともに神経活動を調べると、DNの多くは動き出す少し前に一過性に興奮する細胞が多いことがわかる。また、行動前にDNの興奮が強いほど、運動が生き生きしていることも確認している。もちろん他のタイプの細胞も存在し、これがパーキンソン病の病態理解を難しくしているように思える。
DNが行動前の興奮するのは多くの症状を説明できるので、次に光遺伝学を使ってDN神経の興奮を自由に抑えるようにしたマウスを使い、DNを抑制しておくと動きが低下し、動き出そうとしないことがわかる。一方、動いた後でDNを抑制しても、運動に何の影響もない。すなわち、DNは運動の維持には関わらず、運動を始めるという動機に関わることが明らかになった。
逆に光遺伝学で、DNを自由に刺激できるようにすると、期待どおり刺激により運動開始を強く促すことが明らかになった。
最後に、8回レバーを押し続けるとご褒美がもらえるという課題を訓練したマウスで、DNの興奮を調べると、1回目のレバーを押す前に最も興奮し、その後レバーの回数が増えると興奮は低下するが、8回目に押して褒美を期待する時にまた上昇することも分かった。このように、最初の動機と、褒美を期待する回路にDNが中心的に関わることが明らかになった。
そこでこのように訓練されたマウスを用いて、レバーを押す前にDNを抑制すると、期待どおりレバーを押すまでの時間がかかり、また動き出しの回数も減る。しかし、一旦押し始めるとDNが抑制されても課題は継続する。
以上の結果は、DN神経が運動そのものには影響なく、運動を開始させるシグナルと、それによる満足感に関わっていることを示しており、動き出しのスクミもうまく説明することができる。
最新のテクノロジーを病態モデルに用いて、病気を解明する研究がいかに重要かが理解できるいい研究だと思う。ただ、慢性にDNが失われるパーキンソン病では、その間に様々な変化が積み重なる。この結果から、筋緊張への影響がないと結論するのは早い。ディスキネジアなどはこのような積み重なりで起こるようになるのではないだろうか。従って、この急性刺激、抑制実験をそのまま病気に当てはめるのは危険であることを申し添えておく。
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