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2月28日:死にゆく脳の記録(Annals of Neurology2月号掲載論文)

2018年2月28日
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脳への循環が止まると途端に脳細胞は変性を始め、10分以内に回復が不可能になる。この時脳細胞で何が起こっているのかは、動物モデルで詳しく研究されている。ラットを用いた研究から、脳の死へのプロセスには2つの重要なイベントがあることが明らかになっている。まず酸素の供給が止まり、酸素分圧が急速に低下すると、不思議なことに脳細胞の活動を停止させるスイッチが入る。そしてこの停止状態が1−2分続いた後、今度は細胞の脱分極が始まり、この脱分極は隣の領域へと拡大する。この脱分極が起こると、もう脳細胞が元に戻ることはない。このプロセスは、細胞の興奮を止めた上で、脳細胞が細胞内外のイオン濃度を保とうとしてATP依存的に様々なポンプを用いて膜電位を元に戻そうとするうちに、ATP切れに陥り、結局膜電位差を維持できずに脱分極が広がるとされている。

では人間でも同じことが起こっているのか?これを確かめるのは簡単ではない。これまで、脳波計を用いて、循環が止まった後亡くなるまでの過程が調べられているが、頭蓋の外からの記録は解釈が難しい。実際には、脳内に直接電極を設置して記録を取る必要がある。

今日紹介するドイツベルリンのシャリテ病院とシンシナティ大学からの論文は生命維持装置を外した後の脳細胞の活動を脳内の電極で記録した研究でAnnlas of Neurology2月号に掲載された)。タイトルは「Terminal spreading depolarization and electrical silence in death of human cerebral cortex(人間の脳皮質が死にゆく過程で見られる最後の脱分極と電気的停止)」だ。

この研究では、脳出血や外傷で呼吸中枢の機能が失われたため、生命維持装置を装着した患者さんが、家族の判断で生命維持装置を外す時、許可を得て脳皮質表面、あるいは深部に幾つかの電極を設置、様々な指標をモニターしながら、脳内の酸素分圧の低下から始まる脳細胞の最後の様子を記録している。

実際には、精鋭維持装置を外す前に様々な処置を行っているので、脳細胞の反応も様々だが、結局は動物も人間も急速に酸素濃度が低下すると、同じコースを辿って脳細胞が死を迎えるという結果だ。

それでも、まだ酸素分圧が下がらない前から、散発的に脱分極が広がるという現象が見られることなどは、脳波を解釈する上で重要な所見になるだろう。

結局、酸素が来なくなると、積極的に脳細胞の活動を止めるメカニズムがあり、これがほぼ同時に脳の興奮が止まることに反映される。これは、ATPを使って脳細胞をなんとか回復させようとする活動の表れで、これが維持できる間はまだ回復の可能性がある。しかし、ATPが尽きてしまうと、脱分極が始まり、これはまだ努力を続けている領域を巻き込んで広がってしまうというシナリオだ。

しかし、死のプロセスも、人間となると意外とわかっていないのだという印象を持った。いずれにせよ私の脳も、いつか同じ過程に見舞われるが、それまでは頑張ろうという気にさせる論文だった。
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