今日紹介するノースウェスタン大学を中心とする国際治験研究は、転移は見つかっていないが去勢にも関わらず前立腺癌のマーカーPSAが急に上がって来る患者さんを対象にEZTの適用を拡大できないか調べる目的で行われた治験で6月28日号The New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Enzalutamide in Men with Nonmetastatic, Castration-Resistant Prostate Cancer(Enzalutamideによる非転移性、去勢抵抗性の前立腺癌の治療)」だ。
対象は病理学的にガンの組織学的多様化が起こっていないことがはっきりとした前立腺ガンの患者さんで、去勢にも関わらずPSAが上昇を続けているケースを選んで、無作為化二重盲検で患者さんを偽薬とEZTに分け、転移をどの程度抑えられるかについて調べている。また、PSAの上昇を止められるかについても調べている。
結果は上々で、偽薬群ではPSAは上昇し続け、14ヶ月で半数の患者さんに転移が見つかるが、EZTを投与したグループで半数の患者に転移が起こるまでに36ヶ月かかる。これに並行して、PSAの上昇も止められるという結果だ。副作用は全身倦怠感と高血圧が中心だが、循環器の強い副作用が5%に見られる。
以上、成績としては大きな期待を寄せることができるが、このデータを見て、やはり根治は難しいことがわかる。前立腺癌は進化しても多くの場合AR依存性はあるのだが、ARの量や分子構造が変化して、去勢だけでなく薬剤耐性が獲得されてしまう。詳しく紹介しないが、7月12日号のCellにAR遺伝子の発生時期に利用されるエンハンサーが様々な変異で急に使われるケースが数多く見られるため、この領域についての検査も必要だと強調する論文が掲載されていた(Takeda et al, Cell 174, in press, 2018: https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.05.037)。また、一つのARのスプライシング変異の場合は、変異を診断した上で全ての細胞でアンドロゲンの産生を止めるAbirateroneを用いるとガンにより効果があることも以前示されている(Aantonarakis et al, The New England Journal of Medicine, 371:1028, 2014)。検査を徹底して、ガンを知りつつ治療を選ぶことが前立腺癌制圧の道だ。
そして、いたちごっことはいえ、前立腺癌の研究の進展が著しいことは実感する。昨年アフリカから帰った後PSAの上昇が指摘され肝を冷やした身としては、心強い。
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