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7月12日 LINEトランスポゾンは決っしてジャンクではなく、発生に必須の役割を演じている(7月12日号Cell掲載論文)

2018年7月12日
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ゲノム解読により、私たちのゲノムの半分以上が様々なトランスポゾンと呼ばれる染色体を動き回れる可能性がある遺伝子断片で占められていることがわかった。機能はまずありそうにないように見えたので、ジャンクDNAとして分類され、基本的には染色体を動き回って悪さをしないようにすぐ不活化されると考えられて来た。ところが、最近になって、トランスポゾンも発生に必須ではないかとする研究が発表されるようになってきた。昨年9月、受精卵が胚盤胞に発生する際、LINE-1トランスポゾンの発現が高いまま維持されたり、或いは2細胞期で抑制されたりすると発生が進まないというNature Geneticsの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/7308)。これは、LINEが発生初期のクロマチン再構成のオーガナイザーとして働いているからだと解釈されている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文も、2細胞期からの発生でのLINEの機能を調べた研究と言えるが、結論はずいぶん違っている。とはいえ、LINEがこのプロセスには必須であるという点では同じ結論だ。タイトルは「A LINE1-Nucleolin Partnership Regulates Early Development and ESC Identity(LINEとNucleolinは協調して初期発生とES細胞の維持に関わる)で、7月12日号のCellに掲載された。

昨年9月に紹介した研究では、2細胞期でLINEが最も発現が高まりその後急速に低下することに注目して研究が行われたが、この研究ではES細胞の核内でLINE遺伝子から転写されたRNAが強く発現していることに注目し、ES細胞のLINEをアンチセンスRNAで抑え、その機能を探るところから始めている。すると、ES細胞の増殖が低下し、2細胞期特異的に発現する多くの遺伝子の発現が著明に上昇することがわかった。すなわち、LINEはジャンクではなく、転写されてES細胞の増殖を促進し、2細胞期特異的に転写される遺伝子を抑制していることが明らかになった。

これがわかると、あとは探偵小説と同じで犯人探しを行えばいい。もともとこのグループは、この分野の知識が豊富だ。オーソドックスな方法で犯人を追いつめている。まず、2細胞期特異的な遺伝子発現を誘導することが知られているDuxの発現を調べると、LINEを抑えることで強く上昇しており、LINEがDuxを抑えて、2細胞期の転写全体を抑えて、4細胞期へのシフトを誘導する役割があることがわかる。一方、LINEによる細胞増殖の促進については、Duxとは無関係で少し手こずったが、最終的にリボゾームRNAの合成に関わる遺伝子を誘導して、増殖を側面からサポートしている事が明らかになった。すなわち、LINEは別々に、一方では抑制因子、もう一方では促進因子として働いている。

最後にではLINEがDuxを抑制し、rRNAの合成を高めるメカニズムについて調べ、転写されたLINE―RNAがNucleolinとKap1転写因子と結合して、DuxとrRNA遺伝子に直接結合し、Duxの転写は抑え、rRNA遺伝子の転写を高めることを明らかにしている。トランスポゾンから転写されたRNAがNucleolinとKap1遺伝子に結合し標的遺伝子調節領域に結合するとは、まるでCRISPR/Casを思い出させるが、逆になるほどと納得できるシナリオだ。いずれにせよ、LINEがホストを助けているのか、ホストがLINEをうまく使っているのか、ジャンクとして片付けることはもうできないことは明らかだ。

このシナリオは、今後初期胚発生の研究にも多くのヒントを与えている。事実、LINEを抑えると、ES細胞を基底状態にもって行くことができることが、この研究で示された。違う側面から、多能性の維持について、新しい方向の研究が出てくる気がする。
カテゴリ:論文ウォッチ
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