教科書的には、線条体は大脳皮質からの入力を調整して視床へシグナルを送って行動の実行を調整している。このシグナルには、direct pathwayとindirect pathwayの役割の異なる2種類の経路があり、direct pathwayは行動を促進し、indirect pathwayは行動を抑制すると習う。しかし、学習から行動までがこんな簡単な話で終わるわけはない。
今日紹介するソーク研究所からの論文は、この回路の奥深さを教えてくれる研究で6月28日号のCellに掲載された。タイトルは「Optogenetic Editing Reveals the Hierarchical Organization of Learned Action Sequences(行動の順番の学習は階層的に組織化されていることが光遺伝学的介入からわかる)」だ。
動物の脳に備わった模倣能力を使うと様々な学習を行わせることができる。この研究では、マウスに左・左・右・右という順序で二つのレバーを押すと餌がもらえることを学習させている。最初はレバーを押せば餌が出ることをおぼえさせ、次に順番と回数が正しい時だけ餌がもらえることを学習させていく。マウスの場合、1ヶ月すると大体この順序を学習するようになる。実際には、右を押したあとで餌がもらえるので、右を押すという過程を学習するのは早いが、左から先に2回という順序に右を組み合わせるのが難しい。この過程は、線条体のグルタメート受容体依存的だが、この受容体が働かないと特に左と右の動作を組み合わすことが学習できなくなる。
この研究のquestionはこの学習で、ただ漫然と順番がそのまま頭に入ったのか、あるいは左左、右右という行動セットの組み合わせが階層的に組織化されて頭に入ったのかを調べることだ。
まず学習した行動をとるとき、directとindirect神経(d神経、i神経)がどう興奮するかを見ると、d神経が行動の初めと終わりに関わり、i神経が行動のパターンのスイッチに関わることを見出す。
そこで、次にそれぞれの神経を選択的に抑えた時、行動がどう変化するかを調べると、d神経をブロックすると行動の開始が遅れること、また両方ともパターンのスイッチには必要であることがわかり、それぞれの神経が異なる役割を持っていることが明らかになった。
最後に今度はi神経とd神経を別々に刺激した時行動がどう変わるかを調べると、左・左とレバーを押す最初の出だしでd神経を刺激するとレバー押しが一回増えたり、終わり側に刺激するとやはりレバーの回数が増える。逆にi神経は行動の開始時とスイッチ時に刺激するとレバー押しの回数が減る。
実験だけでは分かりにくいと思うので、著者らの解釈を紹介すると、行動の順序は階層的に学習され、全体のプランを始める時と、終わるときは両方の神経が興奮するが常にd神経優位に興奮が起こり、次の2回押すというエレメントになるとi神経の興奮だけが下がりそのままd神経興奮による行動が続く。ところがパターンのスウィッチをする段階では、i神経が興奮するとともにd神経が抑えられて行動が切り替わり、行動が始まるとi神経の興奮は低下してd神経の興奮が始まるが、最後にプランを終わるときにはまたi神経も興奮する、という話になる。
これでも頭が混乱するだけだと言われそうだが、線条体の二つの回路の奥の深さはよくわかると思う。例えばパーキンソン病では、これほど精緻な調整が必要な両方の回路のバランスが壊れることになる。特に行動のはじめは、d神経優位ながらi神経もしっかり興奮している必要があるため、このバランスを整えなおさないと行動が始まらない。その意味で、光で照らしたり、他の回路からプランをインプットすることで行動開始がうまくいくのもそのせいかもしれない。しかし、ますます患者さんに説明するのが難しくなっていくもどかしさを感じる。
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