この方法は隣接するゲノム領域を化学的に結合させ、その後DNAをバラバラにして、結合しているDNA同士をライゲートして一本のDNAにまとめ、その配列から隣り合う配列を特定する。ただ、正確な相互作用を把握するには、大量のシークエンスを蓄積する必要があり、少数の細胞では正確なマップを作ることは難しく、また遠く離れていたり、異なる染色体上のDNA間の結合を調べるのは、原理的に可能でもほとんどできていないといえる。
今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は、このHi-Cなど従来の染色体の3D構築を調べる方法が持っている問題を見事に解決した方法を紹介する、おそらく将来へのインパクトの高い研究ではないかと思う。タイトルは「Higher-Order Inter-chromosomal Hubs Shape 3D Genome Organization in the Nucleus (高次レベルの染色体間のハブが核内でのゲノム3D構成を方向付ける)」で、7月26日発行予定のCellに掲載された。
この研究は彼らがSPRITEと呼ぶ方法の開発に尽きるので、ここでもこの方法について説明しよう。
1)まず細胞を壊さず核内で一定の距離以内に存在するゲノム領域を化学的に結合させる。
2)そのあと、核を取り出し内部の染色体をバラバラに分解する。
3)次に、分解した染色体を96穴のプレートに分配し、そこで異なるバーコードを結合させる。これにより、分解された断片は96種類に分類できる。
この方法のミソはここからで、
4)こうして96に分類した断片をまたあつめて、同じように96穴のプレートに分配し、2個目のバーコードをつける。これにより最初のラウンドで96通りに分類された断片が、2番目のバーコードでさらに96等分され96x96=9216に分類される。
5)この研究ではこの操作を5−6回繰り返し、なんと1兆種類に分類している。これは1兆倍に薄めたのと同じになるため、間違って結合していない断片に同じラベルをつけることはないと考えられる。
これまで開発された技術を用いた、素晴らしい着想だと思う。結果は、Hi-Cができることは全て可能なため、おそらくこの技術がより簡単に使えるようになると思う。さらに、Hi-Cでは見落とされた離れた領域の結合も検出することができ、またその領域に存在するRNAも同時に調べることができる。この結果、
1) 何本もの染色体が集まる場所を正確に特定できる、
2) 核小体のような核内に集まる異なる染色体上の領域も特定できる。
3) この結果核小体に集まる領域は遺伝子の少ない転写活性の少ない領域であることが確認できる。また転写の活発で遺伝子が集まる異なる染色体領域が集まっている核内領域も存在する。すなわち、転写活性に応じて核内にハブが形成されている。
4) rRNAとDNAの結合を同時に調べることで不活性なハブが核小体のrRNAと近接していることが確認できる。
5) 一方アクティブ・ハブに位置する領域ははスプライソゾームRNAと近接しており、nuclear speckleと呼ばれる構造と一致することがわかる。
などなど、様々なデータが示された、大力作で、これ以上説明するのはやめておく。しかし、これまで以上に核内での染色体の様子を記述できる技術であることは間違いない。
読んでみてAtac-seqの論文を読んだ時のように、このテクノロジーがブレークする予感がした。まず、熟練が必要ない。さらに、RNAだけでなく、将来はタンパクとの結合も調べることができるだろう。そして何よりも、必要な細胞数を減らし、おそらく単一細胞でもできるようになるだろう。
このような技術進歩を見ていると、それがお金のある研究者だけでなく、資金や人手のない若手研究者も自由に利用できる体制を作って、誰もが同じ土俵で競争できるようにすることが我が国の課題だと思う。
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