そんなウイルスの一つとして期待されているのが、ポリオウイルスで、セービンらによって開発されたポリオの生ワクチンをベースに使う腫瘍溶解性ウイルスだ。このポリオ生ワクチンのリボゾーム侵入サイト(IRES)をライノウイルスに置き換えたのが、今回使われたウイルスで、神経細胞の障害性が抑えられ、グリオーマで増殖して溶解できるようになっている。また、もともとポリオウイルスはCD155を細胞内への侵入に使うことから、CD155の発現の高いグリオーマへの特異性はさらに高まっている。これに加えて、ウイルス増殖によりインターフェロンの産生を高め、炎症が高まり、免疫反応を誘導できると考えられている。
まあ講釈は別として、大事なのは実際に効果があるかだ。今日紹介するデューク大学からの論文はこのポリオウイルスを用いたグリオブラストーマ治療の第1相の臨床試験で、7月12日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Recurrent Glioblastoma Treated with Recombinant Poliovirus(再発グリオブラストーマを組み換えポリオウイルスで治療する)」だ。
この第1相治験の第一の目的は、ウイルス投与の安全性だが、もちろんその効果を知るのも重要な目的になっている。61人のステージ4の患者さんが選ばれ、様々な力価のウイルスを腫瘍内に投与して感染させている。実際には腫瘍にカテーテルを挿入し、なんと6.5時間かけて少しずつウイルスを投与している。
結果だが、確かに頭痛、目眩などの副作用は見られ、また投与後に脳出血をきたしたケースも存在するが、ウイルスが神経細胞へと感染したり、ウイルス性の神経病変誘導される心配はないようで、極めて悪性のガンに対する治療としては許容範囲の副作用と判断しているように思う。
結果だが、コントロールに選んだ無処置の患者さん104人と比べ、50%の患者さんが亡くなる時間で見ると、コントロールが11.3月に対してポリオウイルス投与群が12.5月と、一ヶ月の延命効果に見える。しかし、死亡曲線を見ると、確かに80%の治療群は、コントロール群と殆ど同じ死亡曲線を示して亡くなっていくが、なんと残りの20%は5年まで全く再発なく経過していることがわかった。すなわち、生存率が20%になる18ヶ月目を超えた患者さんは、再発が起こらないという驚くべき結果だ。例えば4年目で見たとき、コントロール群は生存率が2%なのに、ポリオウイルス投与群では21%、そしてこの21%は5年目も維持されているという結果だ。これに対し、コントロール群で5年目まで生きた人は0だった。
話はこれだけだが、結果としては勇気づけられる。今後効果がなかった患者さんの詳しい検討を行って、もっと多くの人に効果を示すプロトコルの開発が必要になる。今のところ誰に効果があるのか予測は難しそうだが、それでも2割が5年生存するとなると、期待出来る方法が現れたと言っていいいだろう。
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