この研究では、イネの中には水に沈むと、すぐにそれ以上に成長して水上に顔を出す種類があることに着目し、この遺伝的背景を特定しようとしている。
すこし脱線するが、今週号のCellに金沢大学と神戸大学が共同で、シジャクモのゲノム解析の論文を発表している。こちらは、水中植物が陸上へ進出する過程を探るゲノム研究で、植物の成長ホルモンの話など大変勉強させてもらったが、膨大なので紹介をためらった。しかし、ほぼ同時に2編の植物と水に関する論文を眼にすると、植物分野では我が国も独自の着眼点で頑張っている人たちがいると心強く感じた。
本題に戻ろう。この研究では様々な種類のイネを水に沈めた後、一週間で茎が伸びることが出来たかどうかを指標に、SNP解析を行いこの形質に関わる遺伝子の特定を試み、まず第一染色体上の領域を決定、そこから連鎖解析で絞り込んでジベレリン合成に関わるSD1遺伝子に到達している。そしてSD1遺伝子が欠損したイネに遺伝子を導入する実験から、たしかにこの遺伝子が水に沈んだ刺激で茎を伸ばす遺伝子であることを確認している。
次に、SD1の様々なタイプを比較し、この形質に関わる他の遺伝子SK1/SK2が存在する条件でC9285と名付けた系統が最も強い反応を示し、これが水につかった刺激でSD1の発現が高まることによることを発見する。
そして水でなく、植物に様々な影響を持つエチレンによりこの反応が誘導できることを明らかにし(なぜエチレンにすぐ行くのかは門外漢には分からない)、冠水の影響がエチレン受容体を介することを示したうえで、SD1のプロモーターの内の13bpがこの反応に関わることを特定している。その上で冠水によるジベレリンの合成経路を調べ、冠水により普通は働きの少ないGA4経路が活性化し、ジベレリン合成が高まることを明らかにしている。冠水から成長刺激までのシナリオが完成した。
そして最後に、このSD1発現調節のC9285の冠水抵抗性変異のルーツを調べ、洪水の多いバングラデッシュの冠水に強い野生種から選択され栽培されるようになった事を明らかにしている。
冠水抵抗性に着眼し、ゲノムと機能についてオーソドックスに迫った良い研究だと思う。金沢、神戸大学のCellの論文も合わせ、植物分野の活躍が印象づけられた。
カテゴリ:論文ウォッチ