今日紹介するシカゴ・ノースウェスタン大学からの論文は、この治験の妥当性をあらためて確かめる論文で、6月号のJournal of Clinical Investigation に掲載された。タイトルは「Systemic isradipine treatment diminishes calcium-dependent mitochondrial oxidant stress (isradipineの全身投与によりカルシウム依存的ミトコンドリアの活性酸素ストレスを軽減する)」だ。
この研究ではまず、ドーパミン神経の自発的ペースメーキングと樹状突起のカルシウムの周期的振動とが関連していることを、カルシウムイメージングと、膜電位の両方を同じ神経細胞で調べるパッチクランプ法を開発して調べている。この結果、ペースメーキングとカルシウム流入の振動は同期していること、そしてカルシウムの振動にはCav1.3チャネルが関わることを明らかにした。
その上で、Cav1阻害剤isradipineを加える実験を行い、Cav1阻害によりドーパミン神経でのカルシウムの振動を半分以下のレベルに抑制することができるが、膜電位の周期的興奮は影響されないことを見出している。すなわち、israpdipine処理は、ドーパミン神経の振動的興奮に必要なカルシウム振動は維持してドーパミン神経の機能を維持しつつ、Cav1を介する大きなカルシウム振動を抑えることで、ミトコンドリアを変性から守っている事を強く示唆している。そしてisradipinをマウスに投与することで、活性酸素のストレスを軽減し、オートファジーによるミトコンドリアの変性を抑制、最終的に黒質のドーパミン神経だけでミトコンドリアの変性が止まり、ミトコンドリアの大きさと数が増加している事を明らかにした。
以上の結果から、動物実験レベルでは間違いなく、カルシウムの大きな振動的変動が、ドーパミン神経特異的な変性の原因になっている事を示唆し、現在進んでいるisradipinの治験が論理的には正しいことを強調している。とすると、現在行われている治験結果に期待を寄せることができそうだ。もし現在の治験がうまくいかなかっても、原理は確かめられているので、例えばよりCav1.3に特異性の高い阻害剤を開発するなど同じ方向でパーキンソン病の進行を遅らせる方法を開発できる可能性も十分あると思う。
しかしいくつか問題がある。まず、症状が出始めた時には、かなりの数のドーパミン神経が失われている。このようなケースでも進行を遅らせることができるのはよくわからない。もう一つは副作用だ。実際の患者さんに使うとなると、この実験での投与期間とは比べ物にならない長期の投与が必要になる。これによる副作用がでないことも切に願っている。
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