そんな典型例がボストン・ダナファーバーガン研究所から7月18日号のScience Translational Medicineに発表された。タイトルは「MHC proteins confer differential sensitivity to CTLA-4 and PD-1 blockade in untreated metastatic melanoma(MHC分子は転移メラノーマのCTLA-4及びPD-1阻害治療に対する感受性の違いの原因になっている)」だ。
この研究は多くの進行したガン細胞でクラスI-MHCの発現が0-100%まで大きく変化している事に気付き、この発現とガンに対するチェックポイント治療効果とが関連しないか調べようと着想している。重要なことは、このMHC発現の多様性は遺伝子変異で説明できない点だ。クラス Iに対し、クラスII抗原は一部のガンでで発現しているだけだった。
次に、チェックポイント治療の経過とMHCの発現の相関を調べている。このコホートでは、anti-CTLA-4抗体(IPI)とanti-PD-1抗体(NIVO)を組み合わせる時、どちらを先にするかとMHCとの関わりを調べている。面白いことに、 IPIを先にした時は、あきらかにクラス Iの発現と強い相関を示す。すなわち、発現が高い方が予後がいい。ところが、NIVOを先にした場合はクラスI抗原との相関はほとんど無くなる。一方、クラスIIで見ると、NVOから始めた場合に高い相関を示し、半年以降死亡例がない。これらは最終的に両方の抗体が組み合わせられるプロトコルだが、IPI単独の場合も調べ、この場合もクラスIの発現と予後が強く相関する事を示している。
最後に、自然免疫やクラスI発現と相関するインターフェロンにより誘導される遺伝子群との相関を見ているが、この場合はNIVOから始めたときだけ高い相関が見られる。この時誘導されてくるリンパ球との相関も調べており、NIVOからスタートした時だけ、γδT細胞やNK細胞の数がクラスIが低いと高まっている。これは、クラスIが低くてもγδT細胞やNK細胞が補っていることを強く示唆している。
実際、NIVOから始めた時クラスIは必要ないのかと驚いてしまう。いろいろ理屈はつくだろうが、なぜこの結果になるかはよくわからないと思う。要するに、CTLA4阻害による場合は、クラスI+ガンのネオ抗原が必須だが、PD1阻害の場合は、クラスIIによる刺激と自然免疫系をうまく使いながら、ガンを殺していることがわかる。この結果から考えると、バイオプシーをしてクラスIIと炎症マーカーが強い人は、まずNIVOから初めて、その後必要に応じてIPIにスイッチするのが良いという結果だ。どちらにせよ、この論文では、療法を組み合わせた方が間違いなく予後がいいという話になっている。幸い、同時に2種類を投与するのではなく、順番を考えている点から考えても、抗体療法の経済的側面も考えた治療法が出来上がりつつあることがよくわかる。
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