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1月7日 心筋梗塞の予後を改善する薬剤ができるかもしれない(1月1日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年1月7日
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カテーテルによるステントの挿入治療により血液の循環を早期に再開することが可能になり、心筋梗塞の予後は劇的に改善した。しかし、血流が止まっていた間に起こる心臓へのダメージはそのまま残るため、かなりの患者さんでは心不全への進行を止めることは難しく、また不整脈などによる突然死のリスクも抑えることは難しかった。

今日紹介するオーストラリア・シドニー大学からの論文は、再灌流後の損傷治癒に働きかけて心臓機能の低下を防ぐ目的でPDGF-ABが利用できること示した研究で1月1日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Platelet-derived growth factor-AB improves scar mechanics and vascularity after myocardial infarction(PDGF-ABは心筋梗塞巣の瘢痕の力学的性質と血管密度を改善する)」だ。

発生や修復に関わる増殖因子PDGFは、PDGF-AとPDGF-B分子が、それぞれS-S結合で会合して形成され、組み合わせによりAA、AB、BBの3種類が存在する。それぞれ結合する受容体のレパートリーは異なるが、PDGF-ABは受容体αα、及びαβに結合することが知られている。このタイプの他の増殖因子と比べると極めて複雑だが、ともかくPDGF受容体αを発現する細胞を刺激すると考えておけばいいだろう。

このグループはこれまで小動物の心筋梗塞モデルでPDGF-ABが心臓機能を保持するために重要であることを示していた。この研究では、その延長で大型動物豚を用いて心筋梗塞を誘導し、再灌流を始めた時からPDGF-ABを投与した時予後を改善できるか調べている。

結果は期待通りで、この方法で心筋梗塞を起こすと、4割の豚が不整脈などで早期に死亡するが、心筋梗塞後の不整脈、特に心室性の不整脈とそれによる死亡を完全に防ぐことができる。

また、生存した個体の心機能を調べると、心筋梗塞の大きさは変わらないが、心臓の収縮力が維持され、収縮あたりの血液拍出量の低下が抑えられることがわかった。すなわち、梗塞自体は元に戻らないが、PDGF-AB注射は心機能の低下を抑えることができることがわかった。

この原因を組織学的に調べると、梗塞領域に特に小動脈の新生がおこり、血管の密度が高まっている。しかし、心筋梗塞の大きさや瘢痕形成にはPDGF-AB はほとんど効果がない。しかし、修復された時に形成されるコラーゲン繊維の走行が本来あった心筋の走行に一致する方向に綺麗に整えられ、強い力に耐えられるように修復が進んでいることがわかった。この結果、他の部分の心筋の力が伝わって、拍出量が維持される。

また、一般的に梗塞巣では瘢痕の中に心筋の塊が残るまだら模様の組織ができ、これが心室性の不整脈の原因になると考えられるが、PDGF-ABを注射すると、心筋は心筋、瘢痕は瘢痕と綺麗に分離しており、これが梗塞後不整脈による死亡を抑えていると考えられる。

結果は以上で、あとは臨床で確かめるだけの、素晴らしい結果だと思う。もちろん完全に治療するという薬剤ではないが、修復過程に直接働く薬剤がついに心筋梗塞治療にも登場したのではと大きな期待を抱いている。

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