地球温暖化の原因の議論になると、二酸化炭素問題以外にも様々な原因があるからとする意見を論破することは難しい。しかし、化石燃料を使わない発電が50%をすでに超えたドイツなどを見ていると、二酸化炭素と温暖化の関係を積極的に認めることで、新しい産業がうまれ、送電網など新しいインフラへの投資が進んでおり、脱化石燃料の大きな割合を20世紀の象徴である原発に頼ろうとしている我が国には、後悔だけが未来に待っているように感じる。いずれにせよ、NatureもScienceも今年最大の注目点として、温暖化の深刻化がどう現れてくるのか、それに対して世界は前へと踏み出せるのかを挙げている。この2紙に限らず、温暖化問題を意識する論文は今年も多く発表されるだろう。
温暖化問題が動機となって行われる研究はいろいろあるが、今日最も紹介したいロンドン王立大学からの論文は、温暖化することでなんと事故死が増えることを示し、こんな見方もあるのかと少し虚をつかれた調査研究だった。タイトルは「Anomalously warm temperatures are associated with increased injury deaths(異常高温は事故死の増加を招く)」で、Nature Medicine 1月号に掲載された。
この研究では1980年から2017年までの、交通事故、転倒、水の事故、殺人、自殺などの事故死の数を調べ、それぞれの年齢分布や、発生時期の平均値を計算している。
全て米国の統計になるが、交通事故、殺人、自殺は若い層に多く、転倒は高齢になる程高まる。水死が7月に最も多いのはわかるが、面白いことに交通事故や殺人も夏に多い。
もちろんこんな統計だけならわざわざ掲載する理由もないが、2017年、シーズンを通して平均気温が1.5度上昇していたという点に注目し、この年にそれぞれの原因で亡くなった人の数は平均値と比べてどう違うのか調べている。驚くべき結果で、あらゆる原因の死亡が2017年は平均値より高い。もちろん、水死が年齢によっては10%以上も高いのは水遊びの機会が増えるからと思われるが、交通事故や殺人でも2%近く死亡が上昇している。
以上の結果から、今後地球温暖化が進むと、事故死が増えることが予想される。しかし、これは一人の事故死にとどまらない。事故による死亡は、訴訟の頻発も含めて社会的効果が大きい。これを侮ると取り返しのつかないことになるぞというのが、この論文のメッセージだろう。
もう一つ、これはトリビアといった類の話だが、地球最強の生き物クマムシも高温には弱いことを示したコペンハーゲン大学からの論文でScientific Reportsに発表されている。タイトルは「thermotolerance experiments on active and desiccated states of Ramazzottius varieornatus emphasize that tardigrades are sensitive to high temperatures (活動及び乾燥状態のクマムシの熱耐性実験はクマムシが高温に弱いことを明らかにした)」だ。
クマムシが低温や乾燥に強いことは小学生でも知っているが、短い時間だと100度の高温に耐えることが知られていたらしい。ただ、種によっては30度前後でも長期間晒されると活動できないことが報告され、もしそうなら温暖化で暑い夏が来ることで、クマムシの個体数が減るのではないかと心配して、この研究を行なっている。
活動低下≒死として扱っているのは少し問題だが、結果は明確で実験に用いられているクマムシは、乾燥すると高い温度にも耐えられるが、活動している状態で37度に24時間さらすと、なんと50%が死んでしまうという結果だ。
著者らによると、この温度ならデンマークでさえもありうる温度で、当然連日35度以上が続く我が国なら、クマムシの活動性は落ちる。全部死滅しなくても、活動が低下すると、繁殖も低下し、地球最強のクマムシすら温暖化で絶滅の危機に瀕するかもしれないという論文だ。
今年このような論文はまだまだ発表される予感がする。