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「ひきこもり」は万国共通の医学用語になるか?

2020年1月11日
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World Psychiatryに掲載された加藤さんたちの論文

長期間自分の部屋や自宅から出られなくなると、我が国では引きこもりと診断され、様々な公的・私的支援を受けることができる。各地域に支援センターが設置され、様々な機関が共同して本人や家族を助けている。しかし、今後この症状を一つの精神疾患単位として研究していくことも重要で、この要請に応えるため九州大学病院・精神科では引きこもり診療部を設立し、本人や家族の教育プログラムの治験を始めたようだ。

今日紹介したいトピックスが、この診療部門の加藤先生たちによってWorld Psychiatryに発表された意見論文で、引きこもりが日本の文化的風土に根ざした特殊な状態ではなく、多くの国で報告され始めた一つの疾患単位であるとして研究することの重要性を訴えている。すなわち、「引きこもり」が日本発の診断名として今後世界的に利用されるようになる。

ちなみにPubMedでHikikomoriと検索すると85編の論文が検索され、そのうち17編が2019年に発表されているが、我が国からの論文は5編だけで、すでに世界的な用語として多くの研究者に使われ始めているのがよくわかった。

また同じ雑誌に加藤さんたちは、1)引きこもる場所が自宅に限られる、2)6ヶ月以上続くことが多いなどの特徴に加えて、例えば社会とのコンタクトを避けているわけではないことなど他の病気との区別について述べてもいるが、これは専門家に任せたほうがいいだろう。

我が国の研究者の名前がついた病気は多いが、「Hikikomori」のような状態を示す日本語が病名になることは珍しい(例えばイタイイタイ病)。ぜひ世界的な疾患単位として発展してほしいと思うし、我が国でのHikikomoriが1%を超えたと聞くと、その可能性はじゅぶんあると思う。

とするなら、引きこもりという言葉が使われるようになった経緯を30年前に遡って誰かはっきりさせる必要があると思う。

1月11日 原腸陥入時細胞が片方にしか動かない理由(10月10日号 Science 掲載論文)

2020年1月11日
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最近トップジャーナルから、アフリカツメガエルやニワトリ胚を用いた発生研究が減っている。これは遺伝学的胚操作が難しいという理由のせいだろうが、シュペーマン以来の伝統的胚操作が利用できる利点は今でも十分存在すると思う。要するに、使う材料が先にあるのではなく、知りたい疑問が先にあるなら、カエルやニワトリを使うほうが良い場合は多いと思う。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校の三川さんの研究室からの論文はニワトリの利点を最大限に生かせた面白い研究で1月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Programmed cell death along the midline axis patterns ipsilaterality in gastrulation (中心軸に沿ったプログラム細胞死が原腸陥入で細胞を片方だけに移動させる)」だ。

私もマウス胚で原腸陥入期を長く見てきたが、上皮からこぼれた中胚葉細胞がなぜ片方にしか動かないのかなどという疑問を持ったことはなかった。というより、結局左右同じなのである程度は混じり合うだろうと思っていた。おそらく私が個体レベルより細胞レベルでこの過程を見ていたからだろう。しかし、実際はそうではないようだ。

三川さんたちはまず左右のエピブラストを異なる色素で標識して追跡する実験を行い、左右の細胞が原腸陥入後決して混じらないことを確認し、このとき中心線に動いてきた標識細胞が細胞死を起こし、しかも除去されずその場に維持されることに気づく。

普通死んだ細胞に機能があるとは思はないが、さすがプロで、この中心線に集まる細胞死が陥入後の細胞移動の方向性を決めると仮説を立て、まず細胞死をブロックするカスパーゼ阻害剤で処理すると、細胞死が防がれると同時に実に36%もの細胞が反対側からくることがわかった。

次になぜ中心線に移動した細胞が細胞死をおこすのか調べる目的で、様々な増殖因子や細胞外基質を操作する実験を行い、細胞外基質のラミニンの合成をとめると細胞の移動方向がランダムになることを明らかにしている。

いくつかの実験の結果、細胞外基質は直接細胞死を誘導するよりは、中央に細胞死細胞を集める役割があることを確認した後、ラミニン合成を抑制して左右差がなくなった胚の中心に細胞死を誘導する実験を行い、細胞死が陥入後の細胞の偏側性を決めることを明らかにしている。

コンパクトな論文に、きちっと必要なメッセージが詰め込まれており、さすがニワトリ胚と羨ましくなる研究だと思う。もちろん話はこれで終わるわけではない。細胞死の誘導機構や、細胞移動を阻止する機構、また発生では繰り返し起こる細胞死の新しい機能など、広がりがあるように思う。

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