過去記事一覧
AASJホームページ > 2020年 > 1月 > 20日

1月20日 オメガ3脂肪酸を地球規模の食物連鎖から見る( Nature Food 創刊号)

2020年1月20日
SNSシェア

今私たちは食やサプリメントの宣伝に囲まれ、この宣伝だけを頼りに自分に何が必要か選択を迫られている。様々な治験研究を紹介する目で見たとき、私が一番問題に思うのは、元気な俳優さんが使っているということだけで、効果があると錯覚させる宣伝手法だ。もちろん臨床テストと称するものも行われている製品もあるが、例えばFDAの基準をクリアできる製品がどの程度あるのだろうか。

安全なら目くじらをたてることはない。消費者は満足していると声が聞こえる。しかし、現状をみてなぜ心配しているかというと、本当は食こそ21世紀の重要な研究分野になると確信するからだ。もしこのトレンドを理解できず、マーケティングで売ればよいと、本当の開発を怠ると、おそらくあっという間にトレンドから取り残されるだろう。

21世紀、食の研究が時代をリードするという予想はNature紙も同じようで、人間の行動を扱うNature Human Behaviourに続いて、Nature Foodが今年創刊された。創刊号をざっと見渡したが、掲載されたオリジナル論文の数はまだ少ない。記念すべき最初の論文は、オメガ3脂肪酸の世界的不足をどう解決するのかについてアイデアを示したノルウェー大学からの論文だった。タイトルは「Systems approach to quantify the global omega-3 fatty acid cycle(オメガ3脂肪酸の世界規模のサイクルを計量するためのシステムアプローチ)」だ。

オメガ3脂肪酸は脳や網膜の発生に欠かせない成分で、魚を多く食する我が国では十分摂取できるのだが、肉食が中心の多くの国では不足している。ではサプリメントでオメガ3を摂取すればいいという話になるが、これが本当に世界規模で可能かというのがこの論文のポイントだ。

すなわち、オメガ3脂肪酸は現在のところ魚から摂取するしかない。オープンアクセスなので図を参照することが可能なので、ぜひ図1をみてほしい(https://www.nature.com/articles/s43016-019-0006-0/figures/1)。一番右が人間のオメガ3脂肪酸の消費だが、半分が養殖魚、半分が野生の魚に由来する(なんとそのうち3割は廃棄される)。そして、本当に必要な量を計算すると世界で140万トンなのに、漁業からではいくら頑張っても80万トンしか得られない。しかも、野生の魚の漁獲量は減少に転じている。とすると、この不足を埋めることは難しい。

著者らは、この問題をオメガ3脂肪酸の世界規模のサイクルの中で見ることで、解決策を見つけることができると提案している。そしてそれぞれの食物連鎖サイクルでのオメガ3の量を算出し、図1にはめ込んでいる。全く知らなかったのだが、魚のオメガ3脂肪酸の多くは、魚で合成されるのではなく、プランクトン、海藻、オキアミ、軟体動物などの下位の食物連鎖から吸収したものが中心だ。そして、この土台となるオメガ3脂肪酸の食物連鎖の量は、魚が摂取する量の150倍の大きなサイクルを形成しており、ほとんどは魚を通らず分解され、また合成されるというサイクルを形成している。すなわち地球の水系で進んでいるオメガ3サイクルは、全人類に供給しても有り余るほど存在する。

このグローバルなオメガ3のサイクルから、3つの解決策を最後に提案している。

  • オメガ3脂肪酸を魚からだけではなく、海藻、オキアミ、貝などの軟体動物から直接摂取する。
  • 養殖も餌を与えないで、自然から調達する方法を推進する。
  • 野生の魚を養殖の餌として使うのではなく、直接、あるいは油として人間が消費する。

メッセージは以上で、よく知らない分野なのでなるほどと感心したが、図1の数字が出てくる根拠などよくわからなかった。しかし、大きなレベルで私たちの食を見ることの重要性は理解できた。そして何と言っても人間がいかに食物連鎖の先端の先端で多くの無駄の上に栄養を摂取しているかよくわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ
2020年1月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031