T細胞の抗原認識の基本は、組織適合抗原(MHC)と結合したペプチドをT細胞の抗原受容体(TcR)が認識することだが、ペプチド以外の金属や、化粧品などスキンケア製品に含まれる脂質が抗原になることがある。実際、アレルギー性の皮膚炎の原因の多くは、ペプチドでない場合が多い。例えば以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/1783)、慢性ベリリウム症を引き起こすBeSO4はHLA-DPのポケットにBeが結合すると、MHCの構造が変化してそれに対するT細胞が誘導される。ただ、多くはMHCと何らかの形で作用しあって抗原性を発揮するので、特定のMHCを持つ一部の人だけが病気になる。
今日紹介するハーバード大学からの論文はこれに対して、多型性のないCD1aに化粧品に含まれる様々な脂質が反応してアレルギーを起こす機構を探った研究で1月3日号のScience Immunologyに掲載された。タイトルは「Human T cell response to CD1a and contact dermatitis allergens in botanical extracts and commercial skin care products (植物エキスやスキンケア製品に含まれる接触性皮膚炎のアレルゲンとCD1aに対するT細胞反応)」だ。
CD1も構造上はMHC抗原と同じだが、ペプチドではなく脂質と結合してT細胞反応を起こすことが知られており、通常細胞内から由来する内因性の資質と結合している。例えば我が国の谷口克先生が明らかにされたNKT細胞もCD1と糖脂質が結合した構造に反応する。
この研究では化粧品などに含まれるアレルゲンがCD1の一つCD1aと作用しあって起こるのではないかと最初から仮説を立て、CD1aと内因性の資質に反応することが知られているT細胞株の反応を指標にスクリーニングしたところ、最終的にアロマオイルに含まれるバルサムペルーを特定する。
最終的にこの中に含まれるbenzyl benzoateとbenzyl cinnamateがCD1aと相互作用することでT細胞の反応が誘導されることが確認された。
重要なのはこれら2種類の化合物は、これまでCD1と結合する抗原として知られていた極性基を持つ構造とは全く異なる点で、この構造的基盤を調べるため、まず29種類のよく似た化合物を同じようにスクリーニングし、芳香剤として用いられるファルネソールなど15種類の化合物が同じT細胞株の反応を誘導できることを示して、不飽和で、環状構造あるいは側鎖構造を持つ脂質がCD1aと反応するアレルゲンとしての共通の性質であることを示している。
最後にファルネソールとCD1aの相互作用の構造解析を行い、ファルネソールが内因性の脂質をCD1aから追い出すこと、ポケットの底に埋まってTcRとは直接反応しないことなどを明らかにしている。
以上の結果から、化粧品などに使われている芳香剤に対するアレルゲンは、直接TcRと結合するのではなく、内因性の脂質と置き換わってCD1aを安定化させることで、アレルゲンとして働いていることを示している。
おそらくスキンケア製品によるアレルギーは重要な問題なので、抗原の構造的側面が明らかになったことは大きな前進だと思う。しかし、もしCD1aがTcR反応に関わるとすると、なぜ一部の人だけにアレルギーが発症するのか、まだまだ分からないことが多い。いずれにせよ、CD1は様々なアレルギーの媒体として急速に注目が集まってきたようだ。