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1月13日 RNAワクチンの可能性(1月8日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年1月13日

胎児や乳児は母親からの抗体で守られている。マウスやヒトでは胎盤を通して母親の抗体が移行する。また、母乳の中の抗体を腸管から吸収することも可能だ。この結果、母親が妊娠中にインフルエンザワクチンを受けると、乳児のインフルエンザが50%減少することが報告されている。しかし、母親からの抗体はいいことばかりではなく、子供の体内に残存しているうちは、新しい免疫がを誘導するのが難しくなる現象が知られている。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はこの問題をmRNAをリピッドで被覆して投与、細胞内で抗原を作らせるワクチンが解決できることを示した研究で1月8日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Nucleoside-modified mRNA vaccination partially overcomes maternal antibody inhibition of de novo immune responses in mice (修飾拡散を用いたmRNAワクチンは母体由来の抗体による免疫阻害を克服できる)」だ。

このグループは抗原を直接注射する従来のワクチンに代わって、抗原のmRNAのウリジンをメチル化ウリジンに変え安定化させた後、細胞内へ安定に導入するためのリピッドと複合させて作成するmRNAワクチンを研究していたようだ。

ただ、コストなどの面からそう簡単に普及はしないと思われる。そこで、母親の残存抗体が存在した状況でもmRNAワクチンは有効であることを示そうと計画したと思われる。

まず妊娠マウスをインフルエンザワクチンで免疫し、誘導された抗体が生まれてきた子供をインフルエンザ感染から守ることを確認した上で、この子供マウスでは一般的なワクチンでは抗体がほとんど誘導できないことを示している。

同じ条件でRNA ワクチンを筋肉注射すると、母親の抗体がない場合よりは少し低下するが、IgG1クラスの抗体は誘導でき、感染を防ぐことができることを示している。すなわち、なぜかmRNAワクチンは母親の抗体があっても子供の免疫を誘導できる。IgG2aクラスで見ると確かに母親の抗体が反応を抑制しているので、筋肉細胞から作られた抗原は全く母親の抗体の免疫抑制効果は確かにあるが、抗体のクラス別にこれをすり抜けることができている。

最後にこの原因を色々探ろうとしいる。単純に抗原が多く作られるからmRNAワクチンが有効である可能性を排除するため、mRNAワクチンの量を減らして注射しても抗体が誘導できることを確認している。また、リンパ節の胚中心に存在するインフルエンザ特異的B 細胞の数を調べて、母親の抗体があっても胚中心の記憶B細胞が強く誘導されていることを示している。最後に、通常の抗原を強いアジュバントとともに免疫する実験を行い、ある程度免疫は誘導されるが、それでも母親の抗体の抑制効果を克服するまでには至らないことを示している。しかし、結局は何故mRNAが母親の抗体の阻害効果をすり抜けられるのかは説明しきれていない。

結果は以上で、母親の残存抗体の効果を改めて認識することができたが、基礎免疫学的にはなぜmRNAワクチンがこの壁を克服できるのかについては理解できずに終わった。しかし、臨床医学的には確かめる価値は十分ある。特にはしかなどの混合ワクチンは母乳を飲んでいる時に接種する。ほとんどの場合お母さんの抗体はないと考えていいが、授乳中に母親が感染したりした場合は、一つの選択肢として考えられるような気がした。逆に、全てをmRNA ワクチンで置き換えてもいいが、結局はコストの問題で、この壁の方がずっと大きいと思う。

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