考えてみると、私たちの子供時代は「食べること=善」で、裕福な家庭は別にして、おそらく不健康な食というと、好き嫌いなどの、食べないことだったと思う。しかし現在、子供の周りの食環境は大きく変わって、食べることによる肥満などの様々な問題が発生し、「健康な食」を自分で選ぶことの重要性が認識されている。
この問題を学校教育として解決できないか調べた治験研究がJ.Nutr Educ Behav 11月号に掲載されたので紹介する。
この治験では、子供に公共テレビとして制作された、健康な食を用意するクッキング番組を学校で見ることが、その後の子供の食べ物の選択に好影響を及ぼすかを調べている。
実際には、異なる5カ所の小学校の中から8クラス、10〜12歳の学童を選んでいる。この8クラスを無作為的に、健康な食を用意するクッキング番組を見せるクラスと、食とは関係のないクイズ番組を見せるクラスに分け、それぞれの番組を見た後4種類の食べ物のうちどれを選ぶか調べている。結果は期待通りで、健康な食に関するビデオ番組見たクラスの子どもが健康な食を選ぶ確率がずっと高まる。
おそらく、一人でビデオを見て学習するより、仲間と一緒に正しい食について習うことの方が影響が大きいのだろう。教育の場の重要性を示す、子供の感受性をよく理解した面白い治験研究だと思う。
以前のジャーナルクラブで紹介した様に(https://www.youtube.com/watch?v=SGUDm0h184c)、アルツハイマー病の引き金は切断されたアミロイドβ(Aβ)の凝集塊の蓄積による場合が多いと推定されるが、実際の神経視野症状にはタウタンパク質のリン酸化と凝集が関わると考えられている。もしこれが正しいと、Aβとタウのリン酸化をつなぐメカニズムを明らかにする必要がある。
今日紹介するアラバマ大学からの論文はまさにこの問題に取り組んだ研究で、もし正しいならもう少し騒がれてもいい気がすると思う結果で、1月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「β-amyloid redirects norepinephrine signaling to activate the pathogenic GSK3β/tau cascade(βアミロイドはノルエピネフリンシグナルをタウからGSKβの以上シグナル経路を活性化する)」だ。
これまでアルツハイマー病(AD)で睡眠が障害されたり、攻撃性が高まる症状と、ノルエピネフリン(NE)受容体の活性化が関係するのではと考えられてきたが、今日紹介する論文はこの活性化に凝集Aβが関わることを示している。
まずAD患者さんの剖検例から脳組織を採取し、NE受容体活性が上昇していること、またNE受容体刺激剤を投与された患者さんでは、認知機能が低下していることを示している。ただ、統計学的に優位とはいえ、重なりは多く、人間のデータだけでははっきりしない。
そこでAβを発現させたマウスADモデルの脳でNE受容体刺激剤を加える実験を行うと、ADマウスの方が高い反応性を示すこと、またAβを除去するとこの反応が正常化することを示している。
ではAβが直接NE受容体に結合するかが問題になるが、凝集型のAβが受容体と直接結合すること、さらにはNE受容体のどの領域と結合するかも特定している。すなわち、Aβ凝集体はNE受容体に結合して活性化の閾値を低下させる。
そしてこの研究のハイライトだが、Aβ凝集体とNEの両方が働く神経細胞ではGSKβの活性化を介してタウタンパク質のリン酸化が起こることを示している。また、ADモデルマウスを用いて、Idazoxanと呼ばれるNE受容体阻害剤を8週間投与しその効果を調べ、この薬剤はAβの凝集については何の影響もないが、Aβの凝集が増えた脳でも、GSKβの活性化とタウタンパク質のリン酸化が低下していることを示している。さらに、これは細胞レベルだけでなく、マウスの認知機能のテストでも、著しい改善が見られることを示している。
結果は以上で、Aβ凝集体と結合したNE受容体の活性化閾値の上昇がTauリン酸化、細胞死の引き金であることを示した素晴らしい仕事だと思う。ただ、人間のデータは弱いので、疑う人は多いと思う。私としては、人間にも利用できる正しい結果であってほしいと願っている。