1月9日 神経芽腫と環状DNA(12月16日 Nature Genetics オンライン掲載論文)
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1月9日 神経芽腫と環状DNA(12月16日 Nature Genetics オンライン掲載論文)

2020年1月9日
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我々の世代は環状DNAと聞くと、免疫グロブリン遺伝子やT細胞受容体遺伝子が再構成した時に形成されるDNAを思い出す。遺伝子再構成のルールを明らかにするために、免疫グロブリン遺伝子を含む環状DNAを特定しようと研究室が競っていた。しかし、環状DNA自体はそれほど珍しいことではなく、多くの細胞で見られることがすでに明らかになっている。特にガンでは、染色体外で増幅できる可能性から、ガン遺伝子の発現を高める一つの手段として注目されていた。

今日紹介するスローンケッタリングガンセンターからの論文は、神経芽腫に見られる環状DNAを網羅的にリストし、その機能を探った研究でNature Geneticsにオンライン掲載されている。タイトルは「Extrachromosomal circular DNA drives oncogenic genome remodeling in neuroblastoma (染色体外の環状DNAは神経芽腫の発ガン性ゲノムリモデリングに関わっている)」だ。

昔は環状DNAの検出にはPCRを用いてそれだけを増幅する手法で探し出していたが、最近は全ゲノム配列データをコンピューターで解析し、環状構造ができるときに新たに発生する配列をベースに、ゲノムDNAと環状DNA を区別してリストすることが可能になっている。この研究では、これに直線上のDNAだけ消化する方法で精製した環状DNAの配列も加えて、環状DNAの由来や量、そしてゲノムへの再挿入の有無などをほぼ完全に把握できるようにしている。

これらのデータを解析すると、

  • 神経芽腫に環状DNAの多くはcDNAが環状になったもので、ゲノムから直接発生したのは1細胞あたり一個程度。直接ゲノムから飛び出してきた環状DNAは結構大きく、平均で0.7Mもある。一方、cDNAからできた環状DNAの大きさの平均は2.4Kb程度。
  • どちらの環状DNAでも神経芽腫のドライバー遺伝子であるMYCNが濃縮されており、もともと遺伝子増幅がある場所が環状DNAを作りやすい。
  • 環状DNAと遺伝子発現を見ると、環状DNAとして増幅されることで遺伝子発現は確かに上昇しているが、これで全て発ガンに必要な遺伝子発現の上昇を説明できないことも明らかになった。
  • ゲノムから切り出されてできた環状RNAは遺伝子の様々な場所に再導入され、キメラ遺伝子を形成したり、逆にテロメラーゼなどの増殖に都合のいい遺伝子の発現を上昇させたりする。すなわち、トランスポゾントして働いて、ゲノムの安定性を低下させ、悪性のクローンが発生しやすくなる。
  • 実際の症例で、MYCNを含む環状DNAが再導入された患者さんを、検出されなかった患者さんと比べると、予後は極めて悪い。

以上が結果で、環状DNAがガンの悪性化に関わるメカニズムについてはよく理解できた。ただ、タイトルを見て、ひょっとしたら全身転移していても急に治癒するような不思議な神経芽腫の性質も説明する論文かと期待したが、そこまではいかなかった。しかし、なんでも徹底的に調べることの重要性はよくわかった。

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